それは何気ない一言だった。



Pure Love








「俺前から思ってたんですけど、優菜先輩って美人ですよね」

ピク

「いきなりなんだよ」

「いえ、この雑誌の街角モデルってやつ見てたらなんとなく…」

「何々、お前こんなの見てんの?」

「あっ、これは俺のじゃないですよ」

「てことはどっかの課の没収品?」

「いえ、綾さんがくれたんです」

雨丸が見ていたのはどこにでも売っている雑誌だ。

その中には街角モデルとして道行く少女が素人ながらポーズを決めて写っていた。

「確かに優菜の方が美人だな」

ピク ピク

「でしょう?それで何となく」

「おい、お前ら何見てんだ?」

「あっ、班長!」

「何々、街角モデル?」

「綾さんが来る時にくれたんですよ」

「相変わらず暇だな綾っぺ」

「あはは」

「班長としてはどう?」

「どうって?」

「この中のやつと優菜どっちが美人かってこと」

「優菜じゃないのか」

「班長もそう思いますよね!」

ピク ピク ピク

「まぁな。どうでもいいがお前ら」

「はい?」

「その話題のせいでここの気温が下がってんのに気づいてるか?」

「へ?」

班長の一言で後ろを見る。

するともの凄い殺気にも似た気を発している人物がいた。

「寿?」

そう、その正体は寿。

「なんだ」

「ど、どうかした?」

「別に」

そう言うとそっぽを向いてしまった。

そりゃ好きな男が別の女をベタ褒めしているのだ。

ヤキモチを妬いても何ら不思議はない。

それに気づいてくれない雨丸にも少しだけムカムカする。

勝手だなんて分かっているけど。

その日はそんな気分で帰路に着いた。















「美人…か」

寿は家に帰ると鏡に向かう。

確かに自分は美少女の部類に入るのだろう。

だが他は優菜と比べるとどうだろう。

胸なし、腹なし、尻もなし。

擬音で言えばキュ、キュ、キュッ。

とどのつまりは幼児体型。

「それに比べて優菜は…」

優菜は特殊部なだけあって普通の女性より動いている。

戦いもするし、当然訓練だってある。

だが現在いる環境は変わらないはずだ。

ではなぜ?

なぜこんなにも自分と優菜は違うんだろうか。

寿にはまだ11歳なんだから、という考えはすでにない。

年齢よりも同じ女として優菜が羨ましかった。

「どうしたら優菜みたいになれるんだ」

昆布は違うし、お茶も違う。

何かいい方法があったと思ったんだが。

「牛乳だ!」

そうだ、牛乳があった。

あれを飲めば胸が大きくなるとどこかで聞いた。

確証はないがやらないよりはマシだろう。

「確かあった…はず!」

冷蔵庫を慌てて探すと牛乳が2本だけ出てきた。

「よし」

そう言って寿は1パックの牛乳を飲み干した。

「はぁっ」

結構一気飲みはきつかったのか、少し苦しそうだった。

「まだまだ!」



















「おはようございって寿どうしたの?」

「おはよう…。何でもない…」

「何でもないって…。具合悪そうだけど……」

「何でもない」

そう言われてはこれ以上は聞けない。

そう思って席に着いた。

「おはようございます、東先輩、京平先輩」

「おはよう、雨丸」

「よっ、おはよう」

「寿何かあったんですか?」

「さぁ?でも俺たちが来たときにはもうあんな感じだったけど」

「なんか悪い物でも食ったんかねぇ」

「倒れなきゃいいんですけど…」





そんな話をしているなんて知るよしもない寿は必死に腹痛に耐えていた。

やっぱり昨日飲んだ牛乳がいけなかったのか?

それとも賞味期限ギリギリのチーズか?

もしくはお徳用サイズのヨーグルトか?

そんなことを考えている内にだんだんと痛みは増してくる。

おまけに気持ち悪くなってきた。

ヤバイ、と思った時には周りが真っ暗になった。


















「………っここは…?」

「あっ、起きた?」

「雨…丸…?」

「全く、いきなり倒れるからビックリしたよ。具合悪いなら言わなきゃ駄目じゃないか」

「…すまん……」

「もう、今度からは気をつけなよ?」

そう言って撫でてくれる。

あの後真っ青になって倒れた寿を急いで医務室に運んだ。

原因は乳性品を一気に取りすぎたことによる腹痛。

要は食べ過ぎだった。

「一体どうしたの?食べ過ぎなんて寿には珍しいよね」

「…………」

正直言うかどうか迷った。

だって理由が理由だから。

笑われたらどうしようって思った。

でも…。

「……大きくなりたかったんだ……」

「えっ、何?」

「胸が大きくなりたかったんだ」

「へっ?」

寿は真っ赤になりながらも言った。

言われた雨丸はいまいち言っていることが分からないのかポカンとしている。

「この間雨丸が話してたじゃないか。優菜みたいなのがいいって」

美人だって言っていた。

だから雨丸は優菜みたいなのが好きなんだと思った。

だから優菜みたいになろうとした。

牛乳を飲んで、チーズやヨーグルトを食べて。

頑張って優菜に近づこうとした。

だって雨丸の態度はまるで妹でも見ているかの様だったから。

だから優菜が良かった。

ううん、優菜以外でも誰でも良かった。

雨丸が女として見てくれるなら何だって良かったのだ。

だから頑張ったのに…。

……でも……。

結局は優菜みたいにはなれなかった。

やっぱり雨丸は妹みたいにしか見てくれなかった。

女として見てくれなかった…。

「寿…」

寿は俯いてしまった。

恥ずかしかったのか悔しかったのかは分からない。

ただ雨丸が真っ直ぐに見れなかった。

「寿は…何で優菜先輩になりたかったの?」

「……雨丸が美人だって言ってたから……」

「本当にそれだけ?」

「……雨丸に見て欲しかったから……」

「え…?」

「雨丸に妹じゃなくて…女として見て欲しかったんだ…」

「じゃあ…その為に…?」

コクンと寿は返事の代わりに頷いた。

11歳だって関係ない。子供だって言われたって構わない。

だって好きだから。

好きなことに年齢なんて関係ない。

だから雨丸にもちゃんと自分を見て欲しかった。

黙ってしまった寿に雨丸はゆっくりと話し出した。

「ねぇ、寿。俺は寿のことちゃんと見てるよ?いつもしっかりと戦って、俺よりもしっかりしてて」

寿は何も言わない。

「でも時々弱々しい時もあって。そんな時はあぁ、女の子なんだなって思う」

ゆっくりと、言い聞かせるように。

「だからね、そんなに無理に他の人になろうとしなくていいよ」

でもとても優しく話しかける。

「寿は寿でいいんだよ」

少しずつ寿は雨丸を見つめる。

「俺はちゃんと寿が好きだよ」

「………っ」

「だから寿は今のままでいいと思う」

きっとこの好きはみんなにも言う好きで。

恋愛の好きじゃなくて。

1番欲しい好きじゃないけれど…。

「…ほんと…に…?」

「もちろん!」

そんな好きでもすごく嬉しく思えてしまう。

本当に雨丸が好きなんだって感じる。

そのことがとても嬉しい。

「ありがとう…」

「ん、何か言った?」

「…何でもない」

好きに年は関係ない。

出会ってからの時間だってどうってことない。

でも…。

雨丸にはどうなのかな?

まだ恋愛対象じゃないのかな?

まだまだ子供だって思ってるのかな?

でも。

だったらそんな考え吹き飛ばしてやる。

恋愛対象にならないって言うんだったら頑張って振り向かせてやる。

だってまだまだ時間はたっぷりあるんだから。

だから。

「雨丸!」

「何?」

「大好きっ!」

「………っ///!」

覚悟してね!




高速小説を載せるのは初めてです。 マガの方では配信しているのでいくつかあるんですけどね。 今回は雨丸と寿のお話。 別名鈍い男と恋する少女の話。 特にこの2人が好き!