気がつくと辺りは何もない黒だった。 夢しらべ ここは一体どこなんだろう? 思い出す限りこんな所に来た覚えはない。 ではここは? 私が考えているとふと向こうから光が見えた気がした。 不思議に思い光の射す方角に行ってみることにした。 「えっ」 途端誰もいないはずの空間から何かが聞こえた気がした。 「誰…?」 耳を澄ましてみる。 すると今度ははっきりと聞こえた。 『寿…』 誰かが呼んでいる。 そう思ったときだった。 一瞬周りが明るくなったと思うと、次に気がついた時ありえない人物が立っていた。 「…っお前は?!」 「久しぶりだね、寿」 あり得ない人、それは今は亡き私のパートナー。 私を守ってそして…。 「ど…うして…」 「どうかした?寿?」 それにハッとして周りを見回すとそこはとても…とても懐かしい、そして今は有るはずもない大事な場所。 特殊部特務課の待機室。 「ここはっ…」 「もうどうしたの寿?いつもの待機室じゃない」 その言葉に自分を見てみる。 すると11歳の自分じゃない。 あの頃の…2年前の自分の姿があった。 これは…夢? 寿は暫く呆然と待機室を見渡していた。 あの頃は当たり前だった特務課の皆。 任務がない時はこうしてたわいもない話をして。 ここがもう一つの『家』だった。 そして一番大切な居場所だった。 「寿?」 ハッとして見上げると心配そうに彼女がのぞき込んできた。 「な、なんでもない」 そういって視線を逸らした。 「もう、変な寿」 そう言って笑った。 そのとてもとても懐かしい安らぐ笑い方。 笑顔があまりない私。 でもとても好きだった彼女の笑顔。 彼女のそばにいることが凄く好きだった。 何だかとても暖かくて。 こんな所でこんな任務をしていて、多分世間の同じ年の子供達とは全然違うんだろうけど。 それでもここが好きだった。 たとえこの手が血に染まっても、傷がどんなに付こうとも、ここを嫌だなんて思ったことはなかった。 ここにいられるのなら、この居場所を守れるのならどんなことにだって耐えられると思った。 たとえ今のこの瞬間、夢であったとしても。 少しでも長くこの場所にいたかった。 「ねえ」 「何、寿?」 「近くに行ってもいい?」 そう聞くと彼女は驚いたのか一瞬止まってしまった。 それはそうだ、あの頃はこんな風に言った事はなかったし。 でも彼女はすぐに嬉しそうに笑って。 「珍しい寿が甘えてくるなんて!もう可愛い!」 そう言ってギュッと抱きしめてくれた。 ちょっと苦しかったけど、とても気持ちが良かった。 ギュッと軽く抱きしめ返す。 すると彼女はまたとても驚いて。 でも今度は優しく抱きしめてくれた。 雰囲気で微笑んでいるのが分かる。 『お母さん』に抱きしめられたらこんな感じなのか? これが夢ならどうか覚めないで欲しい。 「ねえ…」 "ビービービー! 高速道路ニテ武装シタ暴走車ガ走行中 負傷者多数、普通部デハ応戦不可能 特殊部特務課ハ至急現場ニ急行セヨ!" この出動要請っ…! 「仕事だね」 要請のあと皆準備に取りかかる。 特務部に要請がかかるのは死刑が確定している犯人がいる場合。 まさかっ…。 今日の日付、それは今では彼らの…。 「…っ待って!!」 急いで彼女を呼び止める。 「どうしたの寿、皆もう行っちゃったよ」 「あのっ…!」 そこで言うかどうか迷った。 だってこれはどうせ夢。 だったら言っても言わなくても結局彼らの最期は変わらないのではないか。 でももし違ったら…? 実際事実が変わって過去が変わることなんてない。 そんなことは分かっている。 でもこれは夢だから。 夢だったら変わってくれるのではないか? 自分の願い通りにいくのではないか? もうあんな場面は二度と見たくないっ! 「行かないで!行ったら死んでしまうんだ!だから行かないでっ…!」 「寿?」 「お願い…だから………!」 必死に彼女にしがみつく。 お願い行かないで、行かないでっ! もう二度と皆が倒れるところなんて見たくないっ…! 「…寿」 「お願い…」 「寿」 彼女が優しく呼んでくる。 分かってくれた? そう思って彼女を見る。 『もう遅いよ』 「っ…!!!」 大好きだった彼女の笑顔。 でも今は表情がない。 そして次々と血が彼女を染めていく。 …あの時の様に…。 「あっ…」 コワイ…。 途端待機室だった場所は最初の黒に、いや、それ以上に深くてクライ闇に変わった。 ここはどこっ…? でも動けなかった。 彼女が腕を掴んでいたから。 この闇の中でも彼女はしっかりと見える。 相変わらず血に染まったままで。 捕まれた所から彼女の血が伝ってくる。 暖かいような冷たいようなあの時感じた感覚。 その感じに震えた。 『どうしてあの時あなたは助かったの』 「それはっ!」 『どうしてあなたは逃げたの』 「違う!逃げてない!!」 『何が違うの』 「違う…」 『皆を置いて逃げたくせに』 「違う!」 『皆を裏切った』 「違う!違う!!違うッ!!」 聞きたくなかった。 こんな彼女の言葉。 聞きたくなかった。 彼女からは…。 『ウラギリモノ コトブキ』 「…っあ!!!」 ドキドキする。気持ちが悪い。考えられない。 荒い呼吸を繰り返している内に段々と今の状況を把握してきた。 「……ユメ……」 辺りを見回すとそこはあの暗闇ではなく見慣れた天井。 そうだ、ここは仮眠室だ。 そう理解すると徐々に落ち着いてきた。 そうだ、今日は宿直の当番の日でここには他にも人がいる。 近くのベットには彼も眠っている。 そう分かったのになぜか震えだけは止まらなかった。 止めようと自分を抱きしめてみても一向に治まらない。 そして気が付いた。 涙を流していたことに。 夢だと分かっているのにそれでも…。 「怖かった…っ」 言葉にすると涙が溢れてきた。 「っ…くっ…ぅっ…」 涙は溢れるばかりで止まることを知らないかの様で。 「ぃっ……っ……ふぅっ…」 聞かれたくなくて気づかれたくなくて。 でも止めようとすればするほど涙は溢れてくる。 どうしたら涙は止まってくれるのだろう。 どうしたらこの不安は消えてくれるのだろう。 本当は彼女がいればそれが一番なんだ。 そうすればこの不安も涙も止まってくれる。 でも彼女はもういない…。 そう思うとまた涙が溢れてきた。 その時ふと気が付いた。 近くに寝ている彼のことに。 「…雨丸…」 彼なら何とかしてくれるだろうか? 寿は起こさない様に彼のベットに近づいた。 彼の近くまできても起きる気配はない。 「雨丸…」 と、急に雨丸は寝返りを打ったのかこちらの側を向いた。 一瞬ドキリとしたがどうやら起きてはいないようだ。 雨丸を見ている内に震えは止まってきたようだ。 だけどこの不安はなかなか消えてはくれなかった。 そうやっている内に視界に雨丸の手が入った。 彼女の手とは違う雨丸の手。 でもとても好きな手。 優しくて暖かい雨丸のもの。 無性にそれに触れたくなった。 起きるのではないかと思うもそっと触れてみた。 「…あったかい…」 それがなんだか訳もなく嬉しくて。 また涙が頬を伝った。 そうか、あの時怖かったのは。 彼女に人間の暖かさがなかったからなのか…。 雨丸の温度を感じて分かった。 触れて触れられて分かる生きている人間の暖かさ。 それがこんなにも恋しいものだとは思わなかった。 「ん…」 ハッとして慌てて離れようとした。 しかしそれは叶わなかった。 雨丸が寿の手に触れたから。 「寿…」 「っ…!」 寝言だろうか。 でもしっかりと呼んでいた。 起きてしまったかと思いのぞき込んでみる。 けれどもやっぱり寝ているようだ。 先ほどとはうって変わってドキドキしている。 それは不安などではもちろんなくて。 いつも雨丸に感じている心地よいドキドキ。 「雨丸…」 いつの間にか不安はどこかに消えていた。 「ありがとう」 そう言って寿はそのまま眠ることにした。 明日起こしに来た皆の反応が楽しみだと思いながら。 今度はいい夢が見られそうだ。
私の体験談が元だったりする。 昔夜中に嫌な夢見て起きた時にその原因の人が偶然いなかったんです。 それで家族に気づかれるのも嫌だったのでそのまままた寝直しました。 って感じです。 今回は寿にやってもらいました。 ちなみにパートナーの人の性格はねつ造です。 本当は雨丸もうちょっと見せ場がある予定でした。