私には好きなモノがある。

楽しいことが好き。

綺麗なモノが好き。

でも一番好きなのは…。





タイセツナモノ





太陽が輝いている。

降り注ぐ日差しは暑く、気温もとても高い。

季節は夏。

プールに飛び込みたいのも山々だがそうは行かない。

寿はある所を探していた。

話は数日前に遡る。

〜W.S特殊部交通課〜

暑さに負けまいと特殊部の人々は少々躍起になっていた。

もう猛暑は終わったとはいえ暑さは少しも和らぐ気配はしない。

だがそこに朗報が飛び込んできた。

それはお勤め人へのご褒美。

暑さに勝つための必勝法…。

「私はここがいい」

寿が宣言する。

手を挙げて意見を伝えた。

そう、朗報とは。

「寿の意見に賛成でいいです」

「偶にはいいかもな」

「なっつかしいな」

「じゃあ反対は無しとうことで今年の慰安旅行は決定だな」

日頃のご褒美、慰安旅行のことである。

案としては海、山、温泉など定番のものからスキューバダイビングなどというものまで種種多様。

中には誰だよこんな案出した奴的なものまである。

まあ希望は場所種類を問わなかったので仕方がない。

そんなこんなで特殊部交通課の慰安旅行場所、それは…。

「あっ、寿ここ、ここー!」

「やっと見つけた…」

「広いからねここ」

「日本有数の場所だからな」

「あっ、そうだ」

「どうした?」

「おはよう寿」

「あぁ、おはよう雨丸」

日本有数のテーマパークとして有名な遊園地だ。

「寿はこういうとこ初めて?」

「あぁ、今までは来たことがない」

「遊園地とかも?」

「訓練地なら行ったことはあるんだが」

「く、訓練地…」

大ボケである。

まぁ仕方がないと言えばそうだ。

何せ寿は特務課に2年前までいたのだから。

話を聞くと和やかな感じだが慰安旅行にも行ったことはないのだろう。

「でもここのことは知っている」

「へぇ、テレビか雑誌で見た?」

「あぁ、特集が組んであった。それによるとここは日本でも最大のレジャー施設だってあった」

「そういえばそうだね。ここって遊園地の他にもキャンプ場もあるらしいし」

そう、ここはただの遊園地ではない。

世界何位のお化け屋敷とか日本でも有数のジェットコースターとか。

そういうものが揃っているのだ。

そしてそういうところには必ずあるのだ。

世に言うここだけの話が。

ここのお化け屋敷には本物が出る、とか、ジェットコースターにカップルで乗ると別れるだとか。

どんな呪いだよと言いたくなるようなものから明らかに嘘だろう的なものまで。

それこそ全部併せれば100話を超えるだろう。

だが寿は信じていた。

全部信じた訳ではないが試してみたいものがあった。

それは…。

「さ、雨丸!」

「何?」

「お願いがあるんだ」

「お願い?」

コクコクと頷く。

「私とっ…」

「おーい雨丸、寿ー!」

「あっ、班長!」

向こう側から班長がやってくる。

どうやらなかなか進まない彼らに痺れを切らしたらしかった。

「何やってんだよ、んなとこで」

「すみません、つい話し込んじゃって」

「すまん」

「とっとと行こうぜ。あいつらも向こうで待ってっからよ」

「あっ、はい」

「あぁ」

「そういえば寿さっきの話は?」

「あ、あぁ、大したことじゃないからいい」

「そう?」

指を握りしめる。

班長がもう少し来なければ言えたのに。

だがこういうものは一回言えないとなかなか言えなくなってしまう。

寿はタイミングを待つことにした。

















入場するとそこにはテーマパークのマスコットキャラであろう着ぐるみが踊っていた。

これに寿は釘付けになった。

なにせ彼女のお気に入りはあの戦隊モノ。

なにか共通項を着ぐるみに見つけたらしい。

「寿、あれ気に入った?」

寿は無言で頷く。

「じゃあ写真撮ってあげるよ」

「そんなことが出来るのか?!」

「うん、お願いしてきなよ」

「分かった」

タタタ、と駆けていく。

こんな時彼女は年相応の少女に見える。

どうやらO.Kを貰ったらしい。

嬉しそうに手招きしている。

なんだか微笑ましい。

「雨丸お願い!」

「はいはい」

着ぐるみは寿の隣でポーズをとっている。

「いくよ、はいチーズ!」

パシャリ。

「撮れたよー!」

「見せてくれ!」

急いで駆けてくる。

すると寿は見る見る嬉しそうになって。

見ている方がおかしくなってきた。

「ほら、寿お礼しなきゃ」

「あっ」

そう言うとまた着ぐるみの側まで行って嬉しそうにお礼を言った。

寿ったら嬉しそうだなぁ。

「おい、雨丸」

「へっ?」

「にやけてんぞ」

「あっ、いや、その微笑ましいなぁって思って」

「あぁ寿か」

「はい。あんなに嬉しそうな寿滅多に見ないじゃないですか」

「まぁ見るモノ触るモノ初めてだらけなんだろうな」

「班長はこういうとこ来たことあるんですか?」

「あぁ、まぁあるっちゃあるな。何度か連れて来られたことが」

「その時はあんな感じですか?」

「いや、まぁどうだったかな」

言いよどんだ班長はちょっと気恥ずかしそうで。

あぁ、班長もあんな感じだったんだな。

そう思うとまた微笑ましくなった。

「おっ、戻って来たぞ」

「そう言えば京平先輩達は?」

「あっ?あいつらなら射撃の所に行ってくるって」

「それって夏先輩も一緒に?」

だがその割には静かだった。

いつもなら寿の側を離れようなんてしないのに。

無理矢理連れて行ったんならもっと騒がしかったんじゃ?

「京平達が夏を物で釣ったんだよ」

「物?」

「寿のベストショット写真集」

「ってか先輩…」

なんでそんな物持ってんですか…。

そこは京平。

聞いてはいけない。

「雨丸、班長!」

寿が戻ってきた。

「じゃあそろそろ他のとこもまわるか」

「あれ、でも先輩達は?」

「昼にここ集合だとよ」

「なるほど」

ではしばらくはゆっくりとまわれるのか。

そんなことを考えながらアトラクションスペースへと向かった。

















視線を周りに向ける。

何だろう、さっきから見られてる?

「どうかした寿?」

「視線を感じる」

「あぁー…」

雨丸は何となく納得した。

寿美少女だからなぁ。

寿は気づいていない。

否、自覚がない。

自分が美少女であることを。

「さっきから見られてる感じはするんだが…」

気のせいか?

寿の顔は可愛い。

そして整っている。

そして身長はまだ小さい方だ。

そんな寿が雨丸の横をチョコチョコ付いて歩くのだ。

親鳥の後を必死について歩く小鳥を彷彿とさせるのだろう。

何か見られる様なことしたか?

寿はそう思っていた。

だが雨丸達は気づいていた。

向けられる視線は暖かいものがほとんどで。

しかしそうでないものもチラホラと感じる。

雨丸は少し寿を庇う様に歩く。

それに気づいたのか班長もスッと横に立つ。

「雨丸?」

不思議そうに見上げてくる。

「何でもないよ」

そう言ってニコッと笑う。

「何か乗りたいものあるか?」

寿は瞬間答えた。

「お化け屋敷!」

その目は輝いていた。

そして…班長は固まった。

そういえば班長ホラー駄目なんじゃ…。

「寿他にはないの?」

「お化け屋敷がいいんだっ!」

そう、お化け屋敷がいいのだ。

いや、お化け屋敷でなくては駄目なのだ。

特集に載っていた、あの方法。

試してみる価値はある!

寿の必死の様子に雨丸はどうしようかと悩んでしまった。

「おい…行くぞ」

「えっ?!でも班長…」

ホラー駄目じゃ…。

「いいから行くぞ!」

「は、はい!」

どうやらホラー嫌いがばれたくないらしい。

そんなこんなで三者三様の思いの中お化け屋敷に着いた。

最初に説明を受けて入るところは特別変わったものを感じさせない。

だが忘れてはいけない。

ここには、出る、のだ。

そう、本物が…。

「班長大丈夫なんですか?」

「ど、どうせ作りモンだろ…」

「でも無理に入らなくても…」

「いいから入る…」

その割には先ほどから強く握りしめられた手が痛い。

そこまでして無理に入らなくても…。

そう思わずにはいられない雨丸だった。

「順番だぞ」

寿に言われて3人並んで入る。

中は定番通り真っ暗で。

どうやら最近人気の幽霊が追い掛けてくる系のお化け屋敷のようだ。

「結構暗いね…」

「あぁ…」

よし、ここであれを試してみるか。

寿はまず腕を雨丸に回した。

ギュッと抱きつく、そんな感じだ。

そして胸をすりよせる。

押しつけるともいうが。

頬を寄せる。

そして仕上げに彼を見つめる。

…だが雨丸は鈍かった。

寿の色仕掛けに全く気づいていない。

11歳でこれをしようとした寿もある意味凄い。

普通はそんなものは少女には求めない。

雨丸鈍いぞ。

あの特集にはこれで彼はとか書いてあった。

うーん、あれは嘘か?

そこで寿は気づいた。

雨丸何処見てるんだ?

視線の先を辿ればそこにいたのは…。

班長?

寿と同じように、否それよりも必死に雨丸にしがみついている班長だった。

班長ずるい!

寿は対抗するようにもっと強くしがみつく。

雨丸は苦笑するしかない。

その時だった。

ピチャン… ピチャン…

どこからともなく水の音が聞こえてきた。

トン トン

後ろからいきなり肩を叩かれた。

「ん?」

振り向くとそこにいたのは見事なゾンビだった。

「キャッ…!」

思わず悲鳴が上がった。

「うわぁっ!!!」

だがそれよりも数段大きな悲鳴の直後班長は思わずやってしまった。

得意の技をゾンビ相手にお見舞いしたのだ。

「班長?!」

よろけた雨丸にぶつかって寿は膝を打った。

「寿大丈夫!?」

「あ、あぁ平気だ」

そこで気づいた。

あの班長が凄く必死になって偽物のゾンビを倒した。

これって実は凄く笑えないか?

寿は思わず口を押さえた。

な、なんか班長の意外な弱点発見だ。

雨丸も気づいた。

ってか班長の本気の技くらってこの人大丈夫?!

「だ、大丈夫ですか?!」

急いで駆け寄ると班長に引っ張られた。

「ちょっ、班長?!」

班長はもの凄いスピードで駆けていった。

雨丸を連れて。

流石班長、伊達に特殊部なだけはある。

ちょっと感心してしまった。

「ていうか置いて行くな…」

寿だって多少は足に自信はある。

だがあの班長が本気で走っているのだ。

「追いつけるか?」

とりあえず行ってみるか。

その時後ろの方を不意に見た。

すると先ほどまで横たわっていたゾンビがどこにもいない。

あれを受けてそんな簡単に起きあがれる訳…。

そこで思い出した。

ここには…出る、という噂を。

「ッ………!」

恐怖に駆られて力いっぱい駆けた。

それこそオリンピック選手が驚く程のスピードで。

「雨丸ー!」

どれくらい走っただろう。

無我夢中だったから分からなかった。

「あっ、寿!」

気が付くとそこは出口だった。

そこにはほっとしたような雨丸とグッタリした班長が立っていた。

寿は思い切り息を吐いた。

誰だって入り口から出口まで全力疾走すれば疲れもするだろう。

「置いていくな…」

「ごめんごめん、寿大丈夫だった?」

「………あぁ」

取りあえず本物が出たらしいことは班長の為にも黙っておこう。

さすがに本物の幽霊に技を掛けたとなればそれこそ倒れてしまうかもしれないから。

「っつ…」

「どうしたの寿?」

見ると怪我をしていた。

さっきのせいか?

そこからは血が出ていた。

「寿怪我してるじゃないか!」

「これくらい大したことない」

「じゃあせめて絆創膏張っておこう?」

「でもそんなもの持っては」

「これあげるよ」

そういって屈んで張ってくれた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

「…おい」

「はい?」

「そろそろ昼だ。待ち合わせ場所に行くぞ…」

「あっ、はい」

「分かった」

「班長大丈夫ですか?」

「あぁ………」



















それからお昼を食べて今度は集団でまわった。

ジェットコースターやティーカップ、メリーゴーランドも乗った。

相変わらず注目を集めた。

それはこんなに大人数でゾロゾロ動いているのも原因の1つなのだが、もう1つの理由に本人達は気づいていない。

こんな美形の軍団がいたら視線くらい集めるだろう。

だがそんな注目も何のその。

そんなことを気にする可愛げのあるやつはいなかった。

そろそろ日も暮れてきた頃、寿は班長に呼ばれた。

「何だ、班長?」

「あー、そのな、さっき置いてっちまったお詫びって訳じゃないんだが…」

「お詫び?」

「…お前雨丸とやりたいことがあんだろ?」

「班長知ってっ…!」

「だからな、暫くあいつら引き留めておくからその隙にやってこい」

「………いいのか?」

「あぁ。やりたいことあんだろ?」

「あ、ありがとうっ!」





















「ここでいいの?」

「あぁ」

あの後寿は雨丸を急いで誘った。

今日どうしてもやりたかったこと。

「どうしても一緒に乗りたかったんだ…」

とても景色が綺麗だという観覧車に。

雨丸と2人きりで乗りたかった。

順番で動いている入り口に乗る。

そしてイスに腰を掛ける。

観覧車はゆっくりと頂上を目指して動いている。

「寿はこういうの好き?」

「あぁ」

夕日が差し込む。

綺麗な景色が広がる。

「あっ、そうだ。寿に渡したい物があるんだ」

「渡したい物?」

「そう、これ」

「…開けていい?」

「どうぞ」

小さい袋を開けてみる。

「キーホルダー?これっ…」

「寿このマスコットキャラ好きでしょ?」

それは一緒に写真を撮ったあの着ぐるみのキーホルダーだった。

「…貰っていいの?」

「もちろん!」

そういってニコリと微笑まれる。

それに涙が出そうになった。

…嬉しい……。

「今日は楽しかった?」

「あぁ」

「色々乗ったね」

「お化け屋敷が結構…」

「そうだね」

他愛もない話をする。

一段と光が強くなった。

「………綺麗……」

「……すごい………」

頂上から見た景色は言葉に出来ない程のものだった。

ふと重みが掛かった。

よく見ると寿が雨丸に背を預けている。

すると頭を上げた。

寿を見たら何となく撫でていた。

それが嬉しかったのか嬉しそうに笑っている。

「また来たいね」

「あぁ」

「また来ようね」

「うんっ」

観覧車はゆっくりと進む。

「雨丸」

「何?」

一拍おいて寿は笑った。

「ありがとうっ!」

それは今日一番の笑みだった。

















好きなモノがある。

楽しいことが好き。

嬉しいことが好き。

でも1番好きなのは…。











貴方といられるこの居場所。

















私の趣味が良く分かります。 もう分かり易すぎですね。 もう好きです。 もう可愛すぎです。 寿が大好きです。