ねぇ、飛べない鳥がいること、あなたは知ってる…? 鳥 私が病気に罹ったのは、小学校の6年生の時だった 「ハウスシック症候群です。」 お医者さんにはそう言われた 普通に生活するにはそれ程支障はなかった でも、だんだん病気は悪化していったの いろんな場所の空気、食べ物、そして… 最後には、大好きなペットのトムにまで触れなくなった… トムが事故に遭ったとき、私はあの子が息をひきとるその瞬間まで 抱きしめることも、…その体に触れることさえ出来なかった……… 許されなかった……… しばらくして、私は病院の部屋から出ることが出来なくなった そこを出たら死んでしまうと言われた それから私の生活は狭い窮屈なものとなった… 部屋にいて聞こえてくるのは、外で元気に遊ぶ同じ年頃の子供達 少し前までは、私もあの中にいたんだ… …泣きたくなった… どうして私だけがこんな目に遭わなきゃいけないの? 何度も、何度もそう思った… それから一年が過ぎ、季節は春になった 皆卒業して、中学生になるはずだった でも…私は小学生のまま……… 置いていかれた… そう思った 皆小学生じゃなくなって、だんだん大人に変わっていく でも、じゃあ私は? 皆と同じ様に卒業出来なかった… 本当は、…皆と一緒に卒業したかった… 新学期になって、新しいクラスメイトが出来た でも、誰も私を知らない… 私も…誰も知らない… 結局学校へは一回も行けなかった 誰も、会いに来てはくれなかった… それから、同じ様に季節はめぐり皆卒業していった 私を残して……… そしてまた同じ様に新しいクラスメイトが出来た でも…きっと誰も会いに来てはくれない… でもね、そんな時だったの 君が現れたのは… 「6年生?…もしかして…龍浪小学校の…」 「うん、龍浪小学校6年3組」 あっ、心臓がドキドキしてる… 「私も…私も6年3組なの!!霧島未来!!」 「霧島さん…て、ずっと欠席の…霧島さん!?」 ………うそ……… 覚えててくれた… 私は君を知らないのに 君は…私を知っているの…? 覚えててくれたの? 私は、…忘れられていなかったの…? 嬉しい…涙が出そうな位………嬉しいの… それはほんとに偶然だったけど、君はここに来てくれたよね ねぇ、焔君、君に初めて会った時に言ったよね? 「あたしね、ここから出ると死んじゃうんだって」 笑って見せた わざと平気な振りをした 本当はね今にも泣き出しそうだよ? 自分の病気を認める事って、こんなにも怖いことなんだよね… それから、トムの事話したら焔君は急に何処かへ行ってしまった 「会えるよ!」 「会えるよ!絶対!!きっと『会いたい』っ思ってるはずだから!」 そう言い残して… でもね、無理だよ焔君 だってトムはもういないんだもの… 朝になっても焔君は戻って来なかった どうしたのか心配になった そしたら、急に物音がしたんだ もしかしたらっ… そう思って確かめようとした ぐいっ まさか…って思ったの あまりにも懐かしいその仕草に心が高鳴った 恐る恐る足下を見た 「ーーー…トム?」 信じられなかった… だって、トムはもう死んでしまっていたんだもの… でも、今私の目の前には間違いなくトムがいる 「トムっ!!!」 涙が出た… もう、会えないと思ってた… 「ごめんね、ごめんねトム!!一緒にいてあげられなくってごめんね…!! 抱きしめてあげられなくて…ごめんね………!!!」 涙は止めどなくながれてきて でも、そんなことはどうだっていいの!! 「おかえり、トム…!!!」 私は、今できる精一杯の笑顔で笑った それから、焔君はよくお見舞いに来てくれるようになった 今まではそんな人いなかったから 嬉しかったよ でも、 焔君が帰る時にね、思うの あぁ、やっぱり焔君と私じゃ住む世界が違うんだ…って まるで焔君は空を自由に飛ぶ鳥のようね そう言ったら、君は不思議そうな顔をしてこう言ったよね 「僕が鳥なら、霧島さんだって同じ鳥でしょう?」 違うよ…、違うよ焔君……… あなたは自分の家に帰ることもできるし、 自由に好きな所へ行けるもの でも、私は… 「私は、鳥は鳥でも…きっと…飛べない鳥だよ………」 自分の家にも帰れない 自由に飛び立つこともできない ここに…縛りつけられている… 自分の力じゃ飛び立つことさえ叶わない 無力な鳥だよ……… 「そんなことないんじゃないかな?」 「えっ?」 「確かに、霧島さんは僕らに比べて自由の利かないことも多いと思う。 だけど、霧島さんは無力な鳥なんかじゃないよ。 霧島さんは、自分の力じゃ何にも出来ないって言うけど、本当にそうかな? 出来る事って意外に探すと色々出てくるものなんだ。 例えば、この間のとかね?」 「え、焔君!そ、それは絶対に他には言わないでねっ!!」 「わかってるよ。でも、すごくきれいな声だったよ?」 「え、焔君〜」 「あはは、それにね…」 「それに?」 「それにね、霧島さんは一人じゃないんだ。 誰かに頼ってもいいんだ。例えば、僕らとかね。 そうしたら、出来ることはもっと多くなるはずだよ?」 「ーーー…っ」 泣きそうになった 簡単なことだけど、…気付かなかった そんなこと言ってくれる『誰か』がいなかったから……… でも… …そうだよね どんな飛べない鳥だって、誰かが支えてあげれば 羽ばたくことはできるものね? きっと私は、『飛べない鳥』なんじゃなくて 『飛ばない鳥』だったんだ… でもね、もうわかったの 焔君のおかげだね? 私は、本当は皆と同じ世界にいたんだね… これからは『飛べない鳥』を嘆くよりも、『飛びたてる鳥』になるよ ありがとう