俺にだって出来ることをしよう。







太陽と月〜僕と君〜






「俺泳ぎたい」

きっかけはこの一言だった。

実際には泳げたらいいなぁ、という程度のものだったのだが。

裕喜はあくまでも希望を言っただけなのだ。

しかもポツリと漏らす程度。

だがしかし。

裕喜ラブな彼らにしてみれば大事な彼の願い。

なんとしてでも叶える為に3人は行動に出た。

「裕喜、この後暇か?」

「へっ?暇っちゃ暇だけど………」

「裕喜様、この後のご予定は?」

「えっ?特にはないけど………」

「裕喜殿、この後にお時間はありますか?」

「いや、別にあるけど………」

「だったら海行こうぜ」

「でしたら海に参りませんか?」

「それならば海にでもご一緒しませんか?」

三者三様言葉は違えど言ってることは要は同じ。

全員裕喜と海に行きたいのだ。

最初は裕喜に喜んでもらう為に誘おうと思ったのだけれど。

どうせなら愛しの君と2人っきりで。

そんなもんである。

裕喜としては3人の思惑はもちろん知るよしもなく。

ただ単にもう泳げないと思っていた海に行けることになったのだ。

単純に嬉しい。

「本当か?!海行くのか?」

その喜びを見た瞬間3人は2人きりは諦めた。

だって裕喜が本当に嬉しそうに笑うから。

「おう、水着は持ってきたんだろ?」

「おうっ!」

「花火など持っていきますか?」

「花火やりたい!」

「では今持って参りますね」

「あっ、雪代!」

「なんですか裕喜様?」

「大丈夫なのか?雪代トリだろ?」

裕喜が言いたいのは今日の合宿で知った雪代のこと。

トリが夜は殆ど見えないのは知ってはいたが獣基もそうだとは思わなかった。

「大丈夫ですわ。例え見えなくともお供致します」

「本当に大丈夫か?」

「ええ!」

ならいいけど。

「じゃあ10分後に水着持って集合な」

「分かった」

言うと裕喜は早々に部屋へと駆けていった。

対する3人はと言うと。

「嬉しそうにしちゃって」

「おい咲羽」

「あんだよ雅彦」

「海での抜け駆けは無しだからな!」

「そうですわ!」

「いつ俺が抜け駆けしたよ」

「いつもしてるだろう!」

「この合宿のことだってそうですわ!」

「そりゃ誘った者勝ちだろ?」

「それは………」

「そうですけれど………」

「だったら抜け駆けされないようにすりゃいいだけの話だ」

「ぬぅ!」

「分かりましたわ」

「雪代?!」

「ただし!」

「ただし?」

「容赦は致しませんわよ?」

「望むところだ」

両者雅彦を置いて不適な笑みを浮かべた。

10分後の正面玄関。

「あっ、雪代」

「裕喜様お待たせして申し訳ありません」

「いいって。早く行こうぜ!」

「あんまり慌てると転けるぞ!」

「そんなことっ………!」

ないとは言い切れない。

何せ裕喜は桃太郎。

大人しく歩いて行くことに決めた。

「はぁ〜、真っ暗だな」

「もう夜だからな」

「気を付けて下さいませね、裕喜様」

「分かってるって」

「裕喜殿前!」

「へっ?うわっ!」

「危ない!」

危機一髪。

海にダイブせずにすんだ。

「さ、サンキュー咲羽」

「ったく、言ったそばから転けんなよな」

そう言って笑われる。

手を掴んで助けて貰った。

その甲にはあの印。

やっぱり鬼のかけた呪いは侮れない。

「おっ、海見えてきたぞ」

「ホントか?!」

駆け出すとそこに広がっていたのは蒼い青い海。

とても澄んでいて、でもとてもとても暗い水。

ちょっとだけ怖かった。

「よ、夜の海ってちょっと………」

「なんだ裕喜ビビッたのか?」

「そ、そんなことっ!」

ない………わけじゃないけど。

最後の方は恥ずかしくて聞き取れるかどうかだったけど。

「大丈夫ですか裕喜様?」

「もし駄目な様でしたら戻りますか?」

「い、いや、入る!」

こうなったら意地だ!

「それならとっとと行こうぜ?」

「お、おう!」

被っていたフードを脱ぎ捨てる。

そして雪代は直視した。

体を見た。

裕喜のまだ成長途中のあどけない………。

ブー

「わぁっー!雪代またかっー!!」

鼻血が闇夜に舞うように出た。

「ゆ、裕喜様素敵………」

それが雪代の遺言だった………。

なわけはなく。

一頻り騒いだ後に一行は海へと駆けて行った。

「つ、冷てぇっ〜!」

ただ今の気温18度。

いくらなんでもこの時期に海に入るのはある種自殺行為である。

「やっぱ夜だと冷えてんな」

それ以前の問題である。

「ま、まぁ本格的には泳げませんが………」

「少し入る程度でしたら慣れればたぶん………」

「そういうこった。おらっ!」

「わっ、冷てっ!」

水を掛けられた。

「お返しだくらえ咲羽!」

「おっと!」

「裕喜様お手伝い致します!」

「覚悟咲羽!」

「お前ら全員敵でいいんだな?」

「裕喜様に敵対するなんてありえませんわ」

「そうだ咲羽覚悟しろ!」

「ていっ!」

一斉に水を掛ける。

不適に咲羽が笑ったと思った途端、急に視界から彼が消えた。

「何処行った?!」

「上ですわ!」

「くらえ!」

瞬間上から大量の滴が降ってきた。

いや、滴なんてものじゃない。

洪水である。

「うわぁっ!」

ドドドドドッ

どうやってそんな大量の水を猿の咲羽が上に持っていったのかは不明である。

「ゲホッケホッゴホッ!」

「さ、咲羽………」

「やりすぎだこの馬鹿!」

「へっへ〜ん、やられたらやり返す。それが俺のポリシーだ」

「さ、咲羽おまっ、今のどうやったんだよ!」

「それは秘密ってことで」

裕喜達はまだむせている。

そして1人で勝利の笑みを浮かべている咲羽に見えないように3人は頷きあう。

次の瞬間。

「ブッ」

咲羽に向かって大量の水が掛けられた。

もちろん前にいる3人によって。

「ざまあみろ!」

「天誅ですわ」

「見たか!」

「て、てめぇら〜」

もう後は誰が味方かも敵かも分からないただの水の掛け合いである。

だがそれはそれで楽しかった。

折角海に来たのに泳げないのは残念だけれども。

偶にはこういう海も良いかも知れない。

初めて出来た友達との海。

それだけで裕喜にとっては何にも変えがたいものだから。

どのくらい経っただろう。

「はぁ〜、疲れたぁ」

「結局濡れてしまいましたわね」

「まぁその為の水着なんだし」

「では花火でもしますか?」

「やるっ!」

即答の裕喜に3人は微笑ましくなる。

合宿の時は少々気落ちしていたようだったから。

少しでも楽になってくれるならそれに超したことはない。

「わぁ!結構色々あるんだな!!」

「最近は種類もあるからな」

「裕喜様は何になさいますか?」

「じゃあこの赤いヤツ!」

「裕喜殿、こちらで火をお付けします」

「サンキュー雅彦」

笑顔で答える。

裕喜にノックアウトな雅彦と雪代をほっといて花火は始まった。

やっぱり最初は閃光が激しく色合いもカラフルな花火から。

花火独特の煙などが海岸を満たす。

お次はネズミ花火や打ち上げ型のミニ花火。

打ち上げ型の花火は音も凄いがやはり迫力も違う。

夜の闇に煌めく光はどこか華やかでとても綺麗だった。

そして必ずやるやつがいる。

花火を人に向けて打つという注意事項丸無視のヤツが。

「ほらよバカ犬!」

「や、止めろ馬鹿!それは人に向けちゃいけないって………」

小さな悲鳴と笑いが海岸を支配した。

とてもとても楽しい時間。

出来ればこの時間が続いて欲しいけれど。

でもそんなことは出来なくて。

花火はとうとう最後の一束になった。

「やっぱシメと言ったらこれだろ」

「線香花火か」

「線香花火なんて久しぶりだな」

「裕喜様は線香花火はお好きですか?」

「んー、どうかな。雪代は?」

「そうですわね私は好きですわ」

「俺はどっちかっていうとああいう派手なヤツの方が好きだな」

「線香花火でやりませんでしたか?この玉の部分が最後まで残っていた者が勝ちというゲーム」

「良く3人で勝負しましたわね」

「そうそう。で、大体雅彦が負けんだけどな」

「そ、それは咲羽が邪魔してくるからだろう!」

「あははっ!」

「とりあえず火を付けましょうか?」

「んじゃ、一番最後まで残ったヤツの願いを1つ聞くってことでどうだ?」

「望むところだ!」

「負けませんわよ」

「裕喜もそれでいいか?」

「あ、あぁ」

「じゃあスタート!」

合図と共に各々火を付ける。

勝負なんて言ったもののどうせ自分は負けるだろう。

何せどんなトラブルがあるか分からないから。

だが勝負というのは分からないもので。

相変わらず雅彦の邪魔をしようとした咲羽が成功したものの雪代とぶつかって両者の玉が落ちてしまったのだ。

「えっ………?」

まさか俺が勝ったの?

「あっー!咲羽お前またっ!」

「咲羽………」

「悪かったって。ってことは勝者は………」

「お、俺?」

「おめでとうございます裕喜様!」

「さぁ、裕喜殿どんな願いごとでも言って下さい!」

「1個だけだからな」

「えっ、あの」

先ほどまで負けたと嘆いていたはずなのに裕喜が勝者と分かった途端この変わりよう。

裕喜が凄いのか、ただ単に3人が単純なだけか。

だが実際勝つとは夢にも思っていなかった裕喜だ。

いきなり願い事なんて言われてもそうそう出てくるものでもない。

願いごとなんていきなり言われても………。

これだけいつも助けて貰ってるのにこれ以上お願い聞いてもらうのもなぁ。

こういうの別に明日起こしてくれだとかご飯のおかず一つくれだとかそんなんでいいんだろうけど。

でも………。

「あの、さ………」

「ん、決まったか?」

「願いごとっていうかなんかなんだけど………」

裕喜の言葉は今ひとつはっきりしない。

「それでもいいか?」

「なんでも仰って下さい裕喜様」

「どんな願いでも叶えてみせます!」

「遠慮しないで言ってみろ」

聞いて裕喜は一拍置くと3人を見据えて言った。

「………これからどんな戦いになっても一緒に俺といてくれるか?」

「えっ………?」

「これからどんな鬼が出てくるかもどんな戦いになるかも分からない。それでも………側にいてくれるか?」

「………」

辺りを沈黙が支配する。

「ぷっ………」

それを破ったのは誰だったか。

「クスクス………」

「はははははっ!」

「な、何がおかしいんだよ!」

「何ってお前っ………!」

「それは願い事にもならないではないですか」

「えっ………」

「裕喜様」

雪代が裕喜の側で手を握る。

「我らは裕喜様と共にあります。どんな苦境に立たされようとどんな窮地に陥ろうと裕喜様のお側を離れるなんてことは致しません」

「裕喜殿が嫌だと言っても付いて参ります」

「そうそう、友達だろ」

「雪代、雅彦、咲羽………」

その言葉が嬉しかった。

今まで友達がいなかったから。

出来た友達は大事にしたくて。

だから守られてばかりじゃ嫌なんだ。

だから守りたいんだ。

3人に比べたら俺なんて何も出来ないかもしれないけれど。

出来る限りの力で守りたいんだ。

だから………。

「じゃあさ………」

立っていられるように。

これから先どんな戦いになっても。

「もしこの先俺が挫けそうになったら、その時は………」

鬼がどんなヤツかも分からない。

やっかいな鬼の呪いもある。

「力を貸してくれるか………?」

挫けてしまわないように。

壊れてしまわないように。

「当たり前だろ」

「必ずお助け致します!」

「何を尽くしてでもお救い致します」

3人の言葉に迷いはない。

当たり前って言葉がこんなにも嬉しいだなんて。

「………ありがとうっ!」

いつあるとも分からない戦い。

どんな敵かも分からない鬼。

まだ覚醒しきれていない自分。

裕喜として守ってくれる獣基の3人。

不安はどうしても付きまとうけれど。

「さってとまだ残ってるけど今度は勝負無しでやるか」

「そうだな」

「さっ、裕喜様!」

「うんっ!」

どんなことにも歩いていけるように。



















俺に出来ることをしよう。
















私今幸せです。 買ってきたんです。 桃組プラス戦記です。 これは初ですね。 裕喜が好きです。 雪代も好きです。 もう今テンション高過ぎだ。