例えば その日覚えた芸とか 褒めてもらった出来事とか 大切なモノ 冬もまっただ中のこの季節、1人の子どもが公園の噴水の手すりに座っていた。 「マナ、まだかなぁ…」 はぁ、っと白い息を吐く。目の前には公園で遊んでいる子供や親子連れで賑わっている。 「……いいなぁ……」 誰に呟くでもなくポツリと呟く。 僕もあの中に入れたらいいのに…。 そう思うが実際にはそんなこと出来ない。そっと大きな手袋に隠された手を上から見てみる。 「………」 そっと溜息を吐き、今度は俯いてしまう。 どうせ無理なんだから…。だったらいっそのこと……。 「ってめ、離せ!」 いきなりの怒鳴り声にふとその主を捜す。すると公園の入り口付近に小さな人が見えた。 「いいじゃんか、折角"がいしゅつきょか"が出たんだからさ」 「だからって俺はこんなとこに用はねぇ!!」 「だったらどこならいいんさ〜」 「ここじゃないことだけは確かだ!」 3人の子どもの内の2人が何やら言い争っている。 「もう、2人も止めてよね!」 それを止めたのはもう1人の子どもだった。その場に居た人達は突然の事に何やら呆けてしまっている。 しかしその内に、あぁ子供同士のじゃれ合いか、などと今度は微笑ましく見ていた。 「もう!2人が大きな声出すから他の人に笑われちゃったじゃない!」 そう言って何となくその場を移動する。すると他の人達は興味が逸れたのか、各々好きなことに戻っている。 しかし子どもは、呆然とその3人を見ていた。 すると何か気付いたのか1人の子がこちらに向かって来る。 「こんにちわ」 そう言ってニコリと微笑まれた。最初子どもは自分の事だと分からずに思わず周りを見回した。 しかしこの辺りには自分以外の子どもは居ない。 「えっと、…僕……?」 「うん、そう!君だよ!」 「………ぇええええっ?!」 思わず子どもは驚いてしまった。何せ自分に声をかけてくれる人なんていないと思っていたから。 ぼ、僕が見てたから怒っちゃったのかな?! 「君、どうかし…」 「ご、ごめんなさいっ!」 「え?」 「じっと見ていたことはごめんなさいです!えっと、でも僕別に笑っていたんじゃ…」 「……ク、クスクスクス」 「………あ、あの……?」 突然子どもが笑い出した。謝ったのに笑われたので本人は尚のこと訳が分からない。 「あぁ、ごめんなさい。突然おかしな事を謝られたから」 「あ、あの、別に怒ってる訳じゃないんですか?」 恐る恐る聞くとニコリとまた微笑まれた。 「もちろん!別にそんなことで怒ってる訳じゃないわ」 「よかった…。……あれ?でもじゃあなんで僕なんかに……」 ホッとしたと同時に湧いてきた疑問。すると子どもは今度は期待を込めて聞いてきた。 「ねぇ、君1人?」 「えっ…。……1人ですけど……」 それがどうしたというのだろう? 「良かったら一緒に遊ばない?」 「………」 一瞬言われた事が分からなかった。しかし理解した瞬間驚きにまた声を上げた。 「ええっ?!」 「だ、だめかな?」 「えっ、あの…!」 ダメな訳じゃない、むしろとても嬉しい。だがその反面それにどう反応していいのかが分からなかった。 なぜなら今まで人に誘われた事など無かったのだから。 こういう時って、はいって言っちゃてもいいのかな…。 「どうしたの?」 「………僕なんかでいいんですか……?」 思い切って聞いてみる。すると嬉しそうに笑って答えてくれた。 「君と遊びたいの!」 その言葉がとても嬉しかった。自分なんかとも遊んでくれる人がまだいたのだから。 「………ありがとうございます」 その言葉を肯定と取ったのか、言うが早いかその子どもの手を引いて走り出す。 「あ、あの」 「こっちに来て!仲間を紹介するわ!」 暫く走って公園の影まで来ると、先程の残りの2人が芝生の所に座っていた。 「あっ、いたいた。2人共〜!」 駆け寄ると1人は立ち上がって少し寄って来て、もう1人は面倒くさいのか座ったままで視線だけをこちらに向けていた。 「どこ行ってたんさ?急に走り出すから心配したさ」 「ごめんね」 そう言って少しおどけて笑った。 「あれ?そのちっさいのは?」 指さしながら後ろに隠れていた人影を見る。思わずビクッとなってしまう。 「さっきあっちの方にいたの。折角だから一緒に遊ぼうと思って」 「えぇ!それって後で怒られないさ?」 「大丈夫よ!」 どこから出て来るのか自信満々に言った。そう言われては何も言い返せなくなったのか、う〜ん、と考えた後にあっけらかんと笑う。 「まっ、バレなきゃいっか!」 「そうそう」 2人は何のことはないという感じで少し笑い合った。子どもは後ろでどうしようかと迷っていると、それに気付いたのかニパッと笑いかけてきた。 「初めまして、チビちゃん!一緒に遊ぼうさ!」 「え、えっと、あの、は、はい」 「お〜い!お前もんなとこにいないでこっち来いよ!」 「うっせぇな!俺はこんなとこで遊ぶ気はないっていっただろうが!」 「そんなことばっか言ってるとジジーみたくなるぜ!」 「どういう意味だ!」 「そんなとこに座って動かないヤツのことを"いんきょ"したジジーって言うんさ!」 「誰がジジーだ!俺はまだ若い!!」 言ってることはかなり誤解があるが、それでもその言葉が効いたのかこちらに歩いてきた。 「最初から素直に来ればいいんさ」 「何か言ったか!」 「べっつに〜」 「てっめぇ!」 「もう!2人も止めてよ!この子が怯えちゃってるでしょ!」 見遣ると子どもは2人の迫力に少し固まってしまっていた。 「誰だ、このチビ」 鋭く睨み付ける様に見られて、また更に固まる。 「そんなに睨んだら恐がっちゃうさ。ダイジョブだよ、こいつそんなに恐いヤツじゃないから」 「ふんっ」 そう言われてもう一度3人をよく見る。 1人は自分を誘ってくれた黒髪を2つに結んだ女の子、先程から話しかけてくれるのはオレンジ色の髪をした男の子、そして最後の1一人は黒い真っ直ぐな髪を肩くらいまで伸ばした…。 「おねえちゃんにおにいちゃんに…おねえちゃん……?」 たぶん3人共自分よりは年上だろうと思っての言葉だった。だが、何やら前の2人はお互いに見合って指差しながら囁いていた。 「お兄ちゃん?」 「お姉ちゃん?」 「ってことは…?」 同時に後ろを振り向く。そして一緒に指差してポツリ。 「…おねえちゃん?」 辺りがシ〜ンと静まりかえったと思った一瞬後、そこには怒りと爆笑が支配した。 「てめぇ!誰が女だと!俺は男だっ!!」 勢いにままに胸ぐらを掴まれた。 「ご、ごめんなさっ…!」 「ぎゃははっ!!また女に間違えられたっ〜!」 「だ、ダメだよ笑っちゃ…!」 「笑うなクソ兎!リナも笑ってんじゃねぇっ!!」 怒りと屈辱からか真っ赤になって胸ぐらを掴んでいる人物に恐る恐る声を掛けた。 「あ、あの…」 「あぁっ?!」 「ぴっ…!……ご、ごめんなさい、おにいちゃん…!」 ガタガタと震えながらもしっかりと謝る。するとチッ、と言いながらも解放してくれた。 「あんまり睨んじゃ可哀想さ〜。しょうがないさ、こんなチビちゃんじゃ」 「そうよ、あんまり恐がらせちゃダメよ」 まだ笑いは収まりきっていない様で、微かに震えている。 「はぁ〜、おかしかった!とにかく遊ぼうぜ?」 「そうね!」 「ちっ」 「あ、あのっ…!」 「ん、どうしたさ、チビちゃん?」 見ると少し俯いている。何かと思い少し近寄ると何かを言おうとしている様だ。 「………せん……」 「ん?なんだって?」 「ぼ、僕はチビじゃありませんっ」 「…は?」 言われたことが一瞬理解できなかったが、よく見ると子どもは顔を真っ赤にしていた。 それを見て何か分かったのか、オレンジ色の子どもがなるほど、と相づちを打つ。 「そっか、そういや名前まだ教えてもらってなかったさ。なんて名前、チビちゃん?」 「………あ、アレン………です…」 小さな声で言った。それでも、チビじゃありませんとポツリと付け足して。 「アレンて言うんか!オレはね…」 「てめぇなんざ兎で充分だ」 先程の仕返しとでもいう様に黒髪の子どもが割って入った。 「…ウサギのおにいちゃん?」 「あ、アレンまでひどいさ〜」 「え、ご、ごめんなさい…」 「クスクス、あなたが兎なら私は…」 「リナは蝶じゃないさ?」 「…チョウのおねえちゃん……?」 「それもいいかもね」 そして最後の1人に勇気を出して聞いてみる。 「お、おにいちゃんは…」 「てめぇに名乗るギリはねぇ」 まだ女の子に間違われたことを根に持っているのか、名乗るどころか目も合わせてくれない。 「そんな言い方してっとオレが勝手に決めちゃうさ?」 「う〜ん、なにがいいかしらね」 「俺達が兎と蝶なら…、猫ってとこか?」 「あっ、それピッタリ!気まぐれなとことかプライド高いとこなんかそっくりだわ!」 2人してクスクス笑い合う。猫と言われた子どもは勝手にしろ、といった感じだ。 「……ネコのおにいちゃん…?」 「勝手に言ってろ」 怒ってこないことをみると、そんなに気にはしていないらしい。 「うんっ!」 今度はアレンが少しだけ微笑んだ。 「よっしゃ!じゃあ早速遊ぶさ!」 「そうね、行きましょ!ほら、猫さんも早く!」 「ちっ」 オレンジ兎が先導きって、黒い蝶に手を引かれ、黒い猫は面倒くさそうに後につく。 「はいっ!」 嬉しくなってアレンは元気よく返事をした。