僕はその日は任務のない日だった。










幸福論
















その日はこれといって任務もなく本当に平穏に過ぎ去る筈だった。

でも平穏なんて簡単に壊れるものだった。

「僕何食べよう」

お昼を過ぎた食堂でポツリと呟く。

スープと唐揚げとスパゲッティーとそれからカレーに炒飯なんかもいいかもなぁ。

体を見ると良くそんなにご飯が食べられると思わずにはいられない。

細いのにやはり彼は寄生型なのだ。

見た目では考えられない食事量をいとも簡単に食べてしまう。

相変わらずの注文をすればジェリーさんは喜んで受け数分と経たない内に美味しそうな匂いが漂ってきた。

「良い匂いだなぁv」

間もなく料理が次々と出来上がりアレンの前に並べられていく。

「いただきます」

パクパク モグモグ

そんな音が似合いそうな感じでアレンは早々と料理を平らげていく。

程なくして料理が綺麗に消えた頃デザートを美味しく頂いていた。

お腹がいっぱいになると幸せとか嬉しいと感じる。

美味しいからなのもそうなのだけれど。

心が満たされるってこういう幸せのことを言うんだろう。

美味しい料理も平らげて後は修行でもしようかな。

一息吐いていた時だった。

「相変わらず良く食うさね」

「うわっ!」

「お前どこにそんなに入ってんさ?」

「ラ、ラビ?!」

「よっ、久しぶりさ」

「急に出てこないでよ………」

相変わらず神出鬼没な彼は油断していると本気でどこから出てくるか分かったもんじゃない。

この間なんていきなり風呂場の湯船しかないところに現れた。

あの時は本気でビビッた………。

「アレン気配くらい読まなきゃ駄目さ〜」

「じゃあ言いますけど教団にいる時くらい気配消さないで下さい」

「まっ、考えとくさ」

「はぁ」

「そういやアレンこの後暇か?」

「え、えぇ、特に予定はないですけど」

「じゃあさちょっと相手してくんねえさ?」

「へっ?」

「ちいとばかし修行しようと思ってさ。ただ相手がいねえんさ」

「あははっ」

それはそうだろう。

ただでさえエクソシストは少ないのに暇をもてあましているのを探す方が大変だ。

それに他の人々では修行の相手をしてくれない。

何せ相手はエクソシスト。

半端な強さでは相手にならない。

「いいですよ」

「マジさ?良かった〜。ユウには断られちまってさぁ」

「神田に?」

「おう」

「ってゆうか神田に相手頼むラビも凄いと思いますよ」

「そっかぁ?」

「そうですよ。あんなぱっつん男に頼むなんて」

「パッ………!ぎゃはは!アレッ、おまっ、ユウに聞こえたら殺されっぞ」

「返り討ちにしてやります」

「………随分と面白い話をしてるじゃねぇか」

それに振り返ればそこに立っていたのは紛れもなくその人で。

殺気を隠そうともせず、むしろむき出しにしている。

「ゲッ、ユウ!」

「盗み聞きなんて行儀が悪いですね」

ピク

「あぁ?!聞こえないと思ってるなんて馬鹿かテメェは」

ピクピク

「神田には馬鹿なんて言われたくありませんね」

ピクピクピク

「はっ!馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ」

ピクピクピクピク

「あぁ、じゃあ神田は馬鹿なんですね」

ピクピクピクピクピク

「テメェにだきゃ言われたくねぇなこのモヤシ」

プッツン

「だからアレンだって言ってるでしょう!」

ガタッ

「はっ!テメェなんざモヤシで十分だ!この馬鹿モヤシ!」

「馬鹿は貴方でしょう!このパッツン馬鹿!!!」

「あぁ?!」

「何ですか?!」

「ちょっ、二人ともやめるさ」

「テメェは黙ってろ!」

「これは神田との問題です!」

「だからってここは食堂さ。せめて別の場所で………」

「うるさいこの馬鹿ウサギ!」

2人は綺麗にハモった。

「なっ!いい加減にするさこの馬鹿コンビ!」

見ると3人ともイノセンスを発動していた。

食堂にいた人々は被害が及ばないように隅へと避難している。

まさに戦いが始まる、その時だった。

パコ

パコ

パコン

「たっ!」

「てっ!」

「だっ!」

見事に3人にクリーンヒットしたのは他の何でもない。

「もうっ!食堂で喧嘩しないの!」

リナリーのバインダーだった。

「だってリナリー、神田が」

「テメェ何言ってやがる、このモヤシ!」

「だからそれが馬鹿だって言ってるんです」

「あぁ?!事実を言っただけだろうが」

「パッツン馬鹿の方が事実じゃないですか!」

「何だと!」

「2人とも低レベルさ」

「馬鹿ウサギは黙ってろ!」

「そうですよ!」

「そう言う時だけ一緒になってずるいさ!」

「誰がこんなヤツと一緒だって?!」

「言いがかりもいいとこです!」

「それが分かってないのが馬鹿だって言うんさ!」

「何だと!」

「何ですか!」

「何さ!」

ドガシャッ!

「………………」

「いい加減にしなさいね3人とも」

静かに言ってはいるものの笑っているのが怖い。

微かに殺気を感じるのは気のせいだろうか。

イノセンスを使ったお陰でリナリーの近くの床がメコリとへこんでいた。

物を壊さない辺りは彼女らしい。

「喧嘩するのは構わないけど場所を考えなさい!ここは食堂!暴れて良いところじゃないの!」

「でもっ………」

「それとイノセンスを喧嘩で使わないで!使われると修理が大変なのよ!」

「チッ………」

「それにあなた達一体何回目だか分かってるの?昨日と今日だけでもう8回目よ?!」

「だけどさ………」

「言い訳しない!」

「はい………」

ラビはこの一言で大人しくなった。

だが神田とアレンはそうではない。

お互いに抓ったり突いたりしている。

もちろんもの凄い力でだ。

「アレン君、神田?」

「は、はい!」

「チッ」

「あんまり分かってない様なら分からせてあげましょうか?」

「え、えっと?」

「………」

アレンは今ひとつ分かっていないがその雰囲気から危機を察知したらしい。

神田は長年の付き合いから容易く言いたいことが予測できた。

そして彼女なら迷わず実行することも知っている。

なぜなら経験済みだからである。

「いい?これからまたこんなことがあったらその時は、ね」

何するんですかっー?!

「ハイ」

「チッ」

「リナリー怖いさ」

「何か言ったラビ?」

「い、言ってないさ!」

「そう。そうだラビ」

「何さ?」

「ちょっとこの後部屋まで来てくれない?」

「何?お誘いさ?」

「………地獄の一丁目まで直行させてあげましょうか?」

「エンリョサセテイタダキマス」

「全くもう」

怒っているのも大変可愛らしいのだが今のは本気でイノセンスを使われるところだった。

ラビは決して馬鹿ではない癖にこういうところが馬鹿と言われる所以だろう。

リナリーはラビを引き連れてそのまま食堂を後にした。

アレンと神田をその場に残したままで。





































「ねぇ、どうしてあの2人はああなのかしら」

「ああって?」

「アレン君は神田に対してはすぐに喧嘩するし、神田は神田でアレン君に喧嘩を吹っかけるし」

「あぁ〜」

確かにそうかもしれない。

普段温厚なアレンは神田に対しては嘘のようにすぐキレる。

神田は誰に対しても喧嘩を仕掛けるがことアレンに関しては群を抜いてその率が高い。

そんなんだから2人は会えばすぐ喧嘩になる。

隣にリナリーやラビや科学班の誰かしらがいる時はまだいい。

アレンの方が我慢するか神田が無視して行くかするからだ。

だがそうでない時は別だ。

肩がぶつかっただの下らない理由で喧嘩が始まる。

そんなの今時使う人間を拝みたいくらいなヤクザみたいな理由で教団の一部が丸々吹っ飛ぶことさえある。

いくら教団と言っても修理費はかかるのだ。

何回も壊されてはたまったものではない。

「何であんなに仲悪いのかしら」

「いやぁ、でもあれは仲悪いとはちょっと違うと思うさ」

「どういうこと?」

「う〜ん、何て言うんさね、あれは一種のコミュニケーションみたいなもんさ」

「コミュニケーション?」

「そっ。アレンもユウも大概不器用さね。ああやってしか接し方を知らないんさ」

「でもアレン君は普段はああじゃないわよ?」

「でもアレンとユウって出会いがあれっしょ?だからどうやっていいのか分かんなくなってんじゃないかと思うんさ」

「そうねぇ。確かにあれじゃあ接し方なんて分からないわよね」

「だからさ」

「………?」

「だから俺らがいるんしょ?」

「えっ?」

「少しずつ俺らでサポートしてやるんさ。喧嘩しないで相手と接せられる様に」

「………そうね」

「だからさ、もう少しだけ見てて見ようさ?」

「分かった。でもラビ」

「ん?」

「アレン君と神田は仕方ないにしても貴方まで喧嘩に加わることはないんじゃない?」

「まぁそれはしょうがないということで」

「しょうがないじゃないわよ全く。じゃあこうしましょうか?」

「え?」

「次にアレン君達と一緒になって教団を破壊したらその度にデートを減らします」

「えぇ!そりゃないさ!!」

「これくらいしないとラビには効かなさそうだしね」

「ちょっ、リナリーそれだけはマジでご免さっ!」

「どうしようかな〜」

「リナリ〜」

部屋までの道のりは恋人達の時間で甘く過ぎていった。





































「はぁ〜」

アレンは部屋で沈んでいた。

あの後結局第2ラウンドが発生しそうだったのだがリナリーの言葉を思い出し大人しく部屋へと帰ってきた。

「なんで神田ってああなんだろう………」

最初は仕方ないにしても今も変わらずなあの態度。

何かというと喧嘩を吹っかけてきて。

人に嫌われるのは慣れたつもりだった。

だけど神田に嫌われるのはなぜだか違って。

胸がツキンと痛んだ。

良く言われる言葉を聞く度に感じる痛みとは違う。

神田に嫌いと言われるたびに切なくなった。

なぜだかは分からない。

でも思ったんだ。

神田と普通に話せるようになりたいって。

ただそれだけのことなんだけど。

でもとても勇気がいることだと思った。

嫌われていると分かってる相手に対して優しく接するほど僕は強く出来ていない。

だから………。

神田に少しでも優しくしてもらいたいだなんて。

何て勝手なんだろう僕は。

でもそれが本音だ。

隠しても出てきてしまうこの思い。

ねぇ神田。

もし君が少しでも嫌いじゃないと思ってくれたなら。

ほんの少しだけでいい。

優しくして欲しい。








































私大好きなんです。 確か初めてかな。 神アレです。 見るのは好きなんです。 ただなかなか書けなかったです。 こう何て言うんでしょう。 アレンはいいんです。 神田の別人率が高くなりそうだったんです。 甘いのとか好きだよ。