夢を見た。

白い街に白い空。

静寂に包まれた街は何だか恐くて。

夢中で走った。







夢星







「僕こんな楽しいクリスマスパーティ初めてです」

アレンは楽しそうに笑った。

今日は教団が主催する年に1度のクリスマスパーティ。

千年伯爵との対決で今回はクリスマスとは多少ずれてしまったけど。

それでもパーティの盛大さに変わりはない。

むしろ延びた分の鬱憤を晴らすかのように皆騒いでいる。

「アレン君これも美味しいわよ」

「あっ、リナリー本当ですか?」

「えぇ」

「じゃあいただきます」

「どうぞ」

そう言ってリナリーは料理を差し出す。

「本当だ美味しい!」

「でしょう?」

「よっ、アレン、リナリー楽しんでるか」

「ラビ!」

「貴方今日は任務でいないはずじゃなかった?」

「折角のクリスマスなのに帰ってこない訳にはいかないさ」

「じゃあもう終わらせて来たんですか?」

「そうさ、もうコムイんとこに報告も済ませてきたさ!」

「こういう時ってラビ行動早いよね」

「楽しいことが大好きだもの」

「そゆこと!まっ、楽しもうぜ!」

ラビは言うが早いかアレンの皿からチキンを奪う。

「あっー!!!それ僕のチキン!!!!」

「まぁまぁまだ料理は沢山あるさ」

「だったらそっちから取って下さい!」

アレンは恨みがまし気にラビを見やる。

当のラビは全くもって何処吹く風である。

「全くラビったら」

「おい」

とその時突然後ろから呼ばれた。

「あっ、神田」

「あら、神田も今日は任務じゃなかった?」

「コムイのやつがお前を呼んでた」

「めっずらしー、ユウがパーティに出るなんて」

「そうなんですか?」

「そうさ、いつもは引っ張んなきゃ出てこない癖に」

「あぁ」

なるほどと妙に納得してしまう。

確かに神田が嬉々として参加していたらその方がよっぽど不自然である。

はっきり言えば怖い。

「でもそれでも神田が来るなんて珍しいわね」

「コムイの野郎が六幻の修理をするからだ」

「あぁ」

つまりは脅しか。

大方連れてこなければ修理してやらないとか言われたのだろう。

もしかしたら壊してやるくらい言ったかも知れない。

流石に実行することはないだろうが、仮にもイノセンスなのだ、それ相応のことはしそうである。

「分かった、じゃあすぐに行くわ」

「あぁ」

「リナリー送ってくさ」

「大丈夫よ」

「いいからいいから」

「でも」

するとラビはアレン達に聞こえないくらい小さくリナリーの側で呟いた。

「少しくらい2人っきりになっても罰は当たらないさ?」

「ラビッ」

リナリーはそのセリフに思わず赤くなる。

ラビとしてはそんな反応をされても可愛いだけなので嬉しそうである。

「あの………」

「えっ?」

「コムイさんのところに行かなくていいんですか?」

アレンの素朴な疑問に今度こそリナリーは真っ赤になった。

「あっ、い、行くわよ!」

「じゃあちょっと送ってくるさー」

「もうラビッ!」

2人が去った後に残されたアレンと神田は妙な静寂の中にいた。

元々会っても爽やかに挨拶を交わす様な2人ではない。

むしろ会った途端にケンカ上等、かかってこいや!

なのである。

アレンは初めどうしようか悩んだが神田が無視を決め込んだ様なのでそれに倣うことにした。

あっ、これ美味しい。

これも美味しい、流石ジェリーさんだなぁ。

暫く美味しさに浸っているとふと神田と視線がかち合った。

「………あの」

「大食いモヤシ」

「はっ?!」

いきなり何言い出すんだこの男!

「寄生型だから仕方ないんです」

「それにしても限度があるだろうが」

「ジェリーさんの料理が美味しいからです!」

「蕎麦がない」

「作って貰えばいいでしょう」

蕎麦蕎麦って蕎麦しかないのかこのパッツン!

「六幻が直ったらぶっ壊してやる」

「はぁ?!」

何言ってんだこの男は?!

話がかみ合わないよ!

「ちょっと神田?」

「あぁ?」

そこでアレンはふと違和感に気づいた。

よく見るといつもはピシッと立っている神田がやたらフラフラしている。

言っていることもかみ合ってないし呂律もなんだか怪しい。

わずかに赤くなっているのは気のせいだろうか。

目を凝らして良く見てみる。

何か目が据わってる?

って目が据わってるのはいつものことか。

でも………。

アレンはそれまでのを考えてみた。

そして見つけた。

神田が飲んでいたであろう物を。

結論、神田は間違いなく酔っぱらっている。

「あの神田、貴方お酒飲みましたね」

「あぁ?酒なんて飲んでねぇよ」

「それはお酒じゃないんですか」

「これのどこが酒だ」

どっからどう見てもお酒です。

「酔っぱらってるんじゃないですか?」

「ざけんな、これ位で酔うか」

「酔っぱらってる人は皆そう言うんですよ」

「テメェみてぇなモヤシと一緒にするな」

「なっ?!」

人が折角言ってるのに言うに事欠いてそういうこと言う?!

「酔ってるから酔ってると言ってるんですこの酔っぱらい!」

「あぁ?!」

「それ位で酔ってる癖に!貴方こそモヤシなんじゃないですか!」

「ざけんな!酒も飲めない癖に偉そうなことぬかすなこのモヤシ!」

「お酒とモヤシと何の関係があるんですか!このパッツン!」

「あぁ?!」

「第一僕は飲めないんじゃなくて師匠に飲むことを禁止されてるんです!」

「元帥に止められた位で飲めないなんてモヤシだろうが!」

「貴方は師匠の恐ろしさを知らないからそういうことが言えるんです!」

「飲めないことに変わりはないんだろうが!」

「飲めないと飲まないでは大きな違いです!」

「大差ねぇ!」

「あります!」

「ねぇ!」

「ある!」

どれくらい言い合っていただろう。

普段なら止めに入る人もいるのだが如何せん今日はパーティ。

2人の喧嘩など比べ物にならない程の喧噪である。

いい加減言い合いにも疲れてきた頃だった。

「はぁはぁ」

「ちっ」

「神田のせいで無駄に疲れた………」

「あぁ?!」

何か怒鳴り続けたせいでカラカラだよ。

アレンは近くにあった物を適当に飲み込んだ。

「おいっ………」

「えっ………」

その時景色がグルリと歪んだ。

































ひっく

ひっ ぅえ っえ

『何かが聞こえる』

ひっ ひっく

『子供が泣いている?』

ここどこぉ

ひっく こわいよぉ

『ここはどこ?』

1人にしないでよぉ

『真っ白な景色、真っ白な場所』

ひっ ぅえっ どこにいるのぉ

『真っ白な街、誰を捜してるの?』

っえ ひっく おいてっちゃやだぁ

『ねぇ、何がそんなに怖いの?』

さみしいよぉ ひとりはやだよぉ

『置いて行かれるのが怖いの?1人ぼっちなのが………寂しいの?』

ねぇ どこにいるのぉ 

『ねぇ置いていかないで』

あいたいよぉ

『ひとりは寂しいよ』

ねぇ

『ひとりは嫌だよ』

まなぁ

『マナ………』

































「………っ」

「おっ、起きたさ?」

「ラビ………?」

「あっ、アレン君起きたの?」

「リナリー………?ここは………?」

「ここは医務室さ。アレン倒れたの、覚えてない?」

「倒れた………?どうして………?」

「アレン君慣れないお酒を一気に飲んじゃったでしょう?それでみたい」

「お………酒?」

「覚えてないさ?透明なオレンジ色した飲み物」

「あっ………」

「思い出したさ?」

「………はい。でもあれってジュースじゃ」

「シャンパンとかは一見したらジュースと区別は付かないさ」

「それにアレン君が飲んだのがすごくアルコール度数が高いのでね」

「慣れない酒でおまけに度数のめっちゃ高いの一気のみすれば誰だってぶっ倒れるさ」

「はぁ」

「気分は大丈夫?」

「一応は大丈夫みたいです」

「アレン君今日は取りあえずここで寝て?」

「大丈夫ですよ」

「一応よ。ねっ?」

そう言われるとなぜだかリナリーには逆らえない。

思ってくれているその気持ちがとても嬉しいから。

「………はい」

「今日食べ損なった分はジェリーに言って取っておいてやるさ」

「はい!」

倒れてもなおある食欲に2人は思わず笑ってしまう。

きっとジェリーに言えば快く食事を残しておいてくれるだろう。

お気に入りのアレンからの頼みとあらばおまけでケーキも新たに作ってくれるかもしれない。

暫く話していただろうか。

パーティがお開きになったのか廊下がざわつき始めた。

「あら、もうパーティが終わったみたいね」

「じゃあそろそろ部屋に戻るか」

「そうね」

「あっ、じゃあ………」

その時に気づいた。

手に何か握っている。

「これ………」

見ればそれは団服だった。

しかもそれは数少ないエクソシストのもの。

そしてとても見覚えのあるものだ。

そうして思い当たった。

そういえば………。

「あのっ………」

既に部屋の扉の前まで来ていた2人は振り返ると不思議そうにアレンを見た。

「誰が僕をここまで連れてきてくれたんですかっ?」

「あれ、アレン覚えてねぇの?」

言われてもついさっき気づいたのに運んでくれた人を覚えているはずもない。

ラビはそんなアレンに気づいたのか何か企んだように笑った。

「ユウだよ」

えっ………?

「ユウがアレンをここまで運んできたんさ」

「神田………が?」

「そっ。パーティ会場からここまでユウが担いできたんさ」

「えっと」

「会場に戻ってみたらアレン君が倒れたって聞いて急いでここまで来たの」

「それが見物だったさ!」

「………?」

「ユウが人の看病してるとこなんて滅多に拝めないもの見ちゃったさ!」

「確かに珍しいもの見たわよね」

「てっきりもういないかと思ったらイスに座ってさ」

「そうそう、それで何でか聞いたらまたおかしくなっちゃったわ」

「どういうことですか?」

アレンは一向に意味が分からずに困惑していた。

神田が運んでくれたのは分かったがなぜ団服を握っていたんだろう?

するとラビはアレンの言いたいことが分かったのか団服を指していった。

「アレンなんでユウの団服握ってんのか教えてあげようか?」

「えっ?」

アレンが驚き見るとラビは嬉しそうに笑って答えた。

「アレンが寝ててもユウの団服を離さなかったから置いていったんさ」

「はっ?!」

ぼ、僕が神田の団服を離さなかった?!

ウソッ?!

それって僕が離したくないって思ったってこと?!

聞いて混乱しているアレンが余程分かり易かったのかラビは笑ったままだ。

「アレン君寝てる時に夢とか見なかった?」

「ゆ、夢ですか?」

「えぇ、もしかしたらそれで神田の団服掴んじゃったのかも」

「夢………」

「何にしても驚きはユウの方さね」

「そうかもしれないわね」

「えっ、それってどういう………」

「いやさ、普段ならユウは他人がどんなに離さなくても意地でも離させるさ」

「そうそう、それが誰でも関係なくね」

「それがアレンがいくら掴んでたからってあれさ?」

「驚いたわよね」

「わざわざ団服脱ぐなんてな」

「他の人だったら何があろうが離させてたわよね」

「そうそう」

ラビとリナリーは余程そのことに驚いたのか、いかにそれが珍しいことなのかアレンに聞かせていた。

しかしアレンは聞いている余裕がなかった。

神田は僕のこと嫌いなんだよね。

でもそれじゃあどうして団服を置いていってくれたの?

面倒だから?

でも嫌いだったら僕が傷つこうが構わずに外せばいい。

触るのも嫌だったから?

でもそれだったらここまで運んでなんか来てくれない。

じゃあどうして?

思考に耽っていると2人はそっとしておくためか静かに出て行く。

「じゃあアレンまた明日な」

「お大事にアレン君」

「あっ、はい」

それに一端浮上するとドアが静かに閉まった。

静寂が辺りを支配する。

アレンしかいない部屋は静かすぎてあの夢を思い出してしまう。

僕があの時夢の中で掴んだ人。

ひとりになりたくなくて、寂しいのが嫌で。

孤独が怖くて、誰もいないのが恐くて。

必死に掴んだ人。

マナだと思った。

でもマナはもういなくて。

昔は良く迷子になった時にマナが迎えに来てくれた。

でもそれまで待っているのがとても怖くて。

置いて行かれたらどうしよう。

捨てられたらどうしよう。

………ひとりになったらどうしよう。

恐くて堪らなかった。

だから見つけてくれた時は嬉しかった。

しょうがないなって言って撫でてくれるのがとても嬉しかった。

マナが居なくなって。

迎えに来てくれる人が居ないのが分かっていても認めたくなくて。

わざと迷子になってみたりもした。

迎えに来て欲しくて。

優しく笑いかけて欲しくて。

アレンって言って欲しくて………。

「マナ………」

僕が夢の中で掴んだ人はもういない。

でも………。

「神田………」

例えマナと間違って掴んでしまったとしても。

神田に縋ってしまったのは本当。

でもあの時は本当にホッとしたんだ。

大切なものを掴んだって。

「団服後で返さなきゃ………」

アレンはそっと団服を抱いてみる。

何でだろう。

いつもあんなに喧嘩してるのに。

凄く落ち着く………。

もうひとりじゃないんだって思える。

それがすごく、すごく嬉しい。

「ありがとう」

きっと返す時にまた喧嘩になっちゃうだろうけど。

それでも感謝してるのは本当だから。

だから。

ありがとう。

もうひとりじゃないよ。






































私表を更新したのは久しぶりです。 何か裏はポンポン思いつくんですが。 アレンがお酒を飲むっていうのをやってみたかったんです。 本当は色々考えたんだけど纏まらなくなるので止めました。 神アレです。 あんま甘くないね。 甘い方が良いっていうか好きです。