「僕はこっちに行こう」 アレンはポツリと呟く。 先ほど別れたロードが向かったのは恐らくあのテントがあるほうだろう。 確かそんなことを言っていた。 「それにしても寒いなぁ」 街はもういつ雪が降り出してもおかしくはないほど冷え切っている。 空を見れば雲があつく懸かっている。 これって雪が降る前の雲だよね。 あまり雪は好きではない。 寒いだけで特に何があったって訳でもないけど。 「はぁ」 手を擦る。 白く吐きだした息は街がどれだけ寒いかを現している。 「ロードお姉ちゃんあんな恰好で寒くないのかな?」 アレンは出かけにコートさえ羽織らなかったロードを思い出した。 アレンの服装はロードと違いコートをしっかりと羽織っている。 しかしそれは寒いというだけではなくて。 「寒いなぁ」 街に出れば嫌でもアレンは人々から引き立つ。 髪が白い。 綺麗なシルバーだったらまだ良かった。 白い色は街の有色景色の中でどうしても浮いてしまう。 だから街に出る時は必ず帽子かフードを被った。 目に傷がある。 良くタトゥーか何かと言われるがそうではない。 頬に一直線に赤くはしる傷はどうしたって隠せない。 どうしても人目を引く。 だからこうして見えない様に隠す。 だからあんまり外には出たくない。 ロードお姉ちゃんや千年公達はそれくらい気にしないって感じがするから。 だから好き。 どうしたって外に出れば人間は好奇の目を向けてくる。 それが嫌い。 他と違う他人を受け入れない人間が大嫌い。 だから僕を普通に扱ってくれる皆が好き。 だから千年公の言うことは信じられる。 だから人間のいう薄っぺらい事は信じられない。 思考に耽っていると突然前を子供達が走り抜けていった。 その時に思った。 「そういえば」 昔はこんな白色じゃなかった。 雪に紛れてしまいそうな色ではなかった。 茶色だった。 確か明るい色をしていたはずだ。 「あれ………」 そういえばこの色になったのはいつからだろう。 わざわざ染めた訳ではない。 だったらこんなフード被ってはいない。 じゃあいつから。 いつからこの色になったんだろう。 「あれ?」 思い出せない。 そもそもこの傷だって元々あったものではなかった。 確かそんなに昔ではなかった筈だ。 でも僕はずっと千年公のところに………。 ホントウニ。 えっ? ホントウニソウダッタ? そうだよ。 僕はずっと千年公の所に居たはずだ。 だってあそこ以外覚えていない。 だってあの人たち以外知らない。 だから僕は………。 ホントウニ? もう一度思い出してみる。 「なんで………?」 なんで思い出せないんだろう。 千年公やロードお姉ちゃんがいる。 皆と騒いでいる。 そういうところは思い出せるのに。 いくら思い出そうとしてももっと小さいもっと子供の頃のことが。 千年公達がいるところしか思い出せない。 チガウ。 チガウヨ。 ヨクオモイダシテ。 シッテイルハズダヨ? キィ………ン。 あれ、違う。 キィ……ン。 千年公達だけじゃない。 キィ…ン。 僕は知っている! キィン!!! 「うぁっ!」 なにこれっ。 痛い。 痛い! 誰か! その時何かが聞こえた。 『………』 ………? 『………』 誰? 『………』 誰なの? 『………』 誰なの! 『見ててね』 嬉しそうに笑う。 『出来るようになったんだよ!』 何かを持っている。 『ほらねっ』 子供? 『ちゃんと練習したんだよ!』 得意気に笑っている。 『これで出れる?』 この子は僕………? アレンは痛みにその場に座り込む。 痛みは映像が聞こえてくるたびに増していく。 ズキ ズキ 誰と話してるの? ズキ ズキ 誰かいるの? ズキ ズキン 『ねぇ大好きだよ、ーーーー』 キィン!!! 「………ッ!!!」 痛みが突き抜ける。 意識が飛ぶ。 アレンは通りに蹲ったまま動けないでいた。 暫くして漸く周りが認識出来るようになった。 「………はぁっはぁ」 今のは何だったんだろう。 今のは誰だったんだろう。 あれがもしも昔の出来事なら。 あれは千年公達じゃなかった。 あの頃の僕はまだ茶色で傷もなかった。 ………嬉しそうに笑ってた。 あれは誰? 何で思い出そうとしたらあんなに激痛がはしった? 思い出したくないから? 思い出すのがいけないから? ズキ ズキ あれは誰だったんだろう。 僕はあの人を知っている? ………分からない。 でも。 忘れちゃいけない人だった気がする。 とてもとても………大切な人だった気がする。 だったら。 なぜ忘れてしまっているんだろう。 何故思い出せないんだろう。 なぜ………分からないんだろう。 アレンは空を見上げる。 見上げた空は太陽が見えなくてまるでアレンの様だった。 僕は。 思い出したい。 忘れたままでいたくない。 思い出したいよ。 カラン カラン 欠けたピースの音がする。
私やっと更新出来たんです。 放っておくと全然しません。 アレンしか出てきてないです。 これで大分見えてきました。 次あたりから漸く動きます。