楽しいことが好きだ。 わいわい騒げることも大好き。 パニックだってたくさんあるけど。 でもそれだって。 HAPPY PANIC PARADISE !! 海が風を運ぶ。 先ほどの戦いを何とか脱し今は洞窟に避難していた。 外は暗く空があるのかも疑いたくなるような暗闇だった。 アレンは漸く帰ってこられた。 そのことにひどく安堵する。 やっと気がついたリナリーが彼に向かっていつものように微笑んだ。 そしていつものように言った。 その優しさに思わず涙が出てきた。 仲間の元に戻ってこれたと実感出来た。 「ただいま」 「カーーーット!!!」 一気に緊張が解ける。 先ほどとは打ってかわってザワザワとし始めた。 ここは人気ドラマD.GRAY-MANの収録現場である。 通称Dグレで親しまれているこの番組は今他の番組を差し置いて高視聴率をはじき出している。 それには理由がいくつかあった。 一つは他のドラマとは違いアクションシーンが朝の戦隊ヒーロー並なのに決して子供番組ではないこと。 その内容が中高生にウケて噂が噂を呼び人気が出たのだ。 もう一つはクオリティの高さ。 セットや効果音なども凝っていてそれだけでも一つの芸術としてやっていけるほどだ。 最後にこの一つが実は一番の要因なのだが出演者の豪華さにある。 今話題の人気俳優や演技派の女優などを惜しげもなく使っている。 さらにその中でもさらに群を抜いて話題を引きつける人間がいた。 それこそが先ほど収録をしていた一団に他ならない。 まずはこの中でアレン役をしている最年少の少年。 クロノアレンと言う。 丁寧な話し方と礼儀正しさから幅広い層から人気がある。 性格は穏和で良く笑っている。 そのせいかは知らないが。 可愛いという理由から意外にも男性からも支持があったりする。 次にアレンの一つ上のリナリー役の女の子。 クロノリナリーと言って大変な美少女である。 こちらは主に若い男性からの圧倒的な支持を得ている。 理由は言わずもがな。 そして先ほどの場面では会話はなかったが人を引きつける二人がいる。 一人は神田役のクロノユウ。 もう一人はラビ役のクロノラビ。 実はこの二人双子である。 とはいっても性格から何から正反対な二人なのだ。 ユウは無愛想クールで通っているが一方のラビはと言うとそうではない。 ラビは人当たりも愛想も良くファンへのサービスを惜しまない。 因みにユウはファンサービスはあまりしない。 それはしなくても片割れがやるし特にやる必要もないと考えているから。 まぁ実際は面倒いからというだけだったりするが。 こんな感じの二人だからセットで呼ばれることも多い。 そんな時普段はサービスをしないユウも気まぐれで偶にすることがある。 そう言う時は決まって面白いぐらいに視聴率がうなぎ登りになるのだ。 そしてこの四人こそ一番の話題の人物。 クロノ家四兄妹である。 アレン、リナリー、ラビ、ユウは両親共に芸能人の所謂芸能一家。 小さい頃から現場などにちょくちょくと遊びに来ていたりもした。 それがやはりというかなんというか四人とも俳優、女優に進んだ。 そしてアレンにとっては初である主演ドラマがこの作品なのである。 「僕休憩に行ってきます」 アレンはその場の役者達にそう告げると一端セットの端に戻っていった。 腕を見ると良くこんなの造れたと思うくらい精巧なものを取り付けている。 赤黒いこれは確かに実際あったら気味悪く思うだろう。 寄生型のイノセンスは他の物と違いどちらかというと特殊メイクに近かった。 アレンはそれをベリベリと剥がしていく。 今日の出番はここまでだったよね。 そう思い一応監督に確認を取りに行く。 「お疲れ様です」 「ああ、お疲れアレン」 「今日の出番ってこれで終わりですよね」 「そうだな」 監督はペラペラと台本を捲ってゆく。 「今確認してるけど多分平気だろう」 「あと今日って誰の撮影でしたっけ?」 「そうだな、今日はあと残りのシーンからすると神田とラビとリナリーの再会のところだな」 「あっ、じゃあ」 「ああ、彼のセリフはちゃんとあるよ」 「あのっ、この衣装のままで見ていてもいいですか?」 「構わないよ」 「やったっ!」 「折角だから座ってみてなさい」 「はいっ」 言うなりアレンは近くのイスを引っ張り見やすい位置に陣取った。 今日はまだまともにしゃべるシーン見てなかったからなぁ。 今日の撮影は確か皆これで終わりだよね。 じゃあ偶には皆で帰れるかな? とそこでアレンはふと思い立った。 髪の事を綺麗さっぱり忘れていた。 流石にこれじゃあ帰れないよなぁ。 白色なんて誰だって思わず見てしまう。 これ以上視線を集めるのもなぁ。 別に支持して貰ってることに不満などないがこうやって折角の楽しみを邪魔されるのも困ったものだ。 そしてアレンはもう一つ忘れていた。 目の所を良く見ればペンタクルがそのままである。 これも特殊メイクなのだが位置的にどうにも忘れやすい。 頬に向かって綺麗に直線に走っている。 これだとまるで怪我のようにも見える。 実は前に特殊メイクのまま帰りかけて三人に言われるまで気付かなかったことがある。 そのせいで廊下ですれ違うたびに訝しげな視線を集めたものだ。 思考に浸っているとキィンと金属音が聞こえた。 始まった。 ちょうどノアの一族との戦闘シーンだった。 白熱する戦いに思わず見入ってしまう。 ノアの使う技も後で特殊効果を入れるのだがこれだけでも十分迫力満点である。 そしていつも思うことがある。 千年伯爵やっぱり凄いなぁ。 戦闘シーンの時本気で恐かったよ。 アレンは先に千年伯爵とのシーンを取り終えていたのだがあの時の伯爵が何とも言えなかった。 何て言うか不気味だったなぁ。 ただでさえ普通に会話していてもちょっと恐いのにそれが勢いよく迫り来るのだ。 恐いなんてもんじゃない。 はっきり言ってちょっと泣きそうだった。 その時カットと言う監督とカツンという音が聞こえた。 どうやら撮影が終わったようだ。 先ほどまでの空気が一変して和やかなものとなった。 暫くして監督のお疲れさんという合図と共に皆が片づけに入りだした。 アレンはそれを見計らってセットの方に走っていった。 「お疲れ様神田」 「あぁ」 「ねぇ神田この後なんだけど………」 「こら」 軽くコツンと叩かれる。 何かと思って見上げればそこには少しだけ不機嫌な………。 そこでアレンは思い至った。 「ユウ兄お疲れ様です」 「あぁ、お疲れアレン」 そう言うと今度は優しく撫でられた。 撮影が終われば役も終わる。 撮影の時には絶対に見せない優しい笑みと優しい行為。 アレンは兄のそんなところが大好きだった。 「優しさを披露するのはいいけど思いっきり見られてるわよ」 「ユウはアレンに甘いさね」 それに振り返ればこちらも撮影が終わったのかラビとリナリーが笑いながら立っていた。 「リナ姉」 「ラビか」 「撮影も終わったし帰ろうと思うんだけど」 「二人ともこれからなんかあるさ?」 「特にはないな」 「うん」 「じゃあ」 「久々に家で飯食わん?」 「一緒に帰れるの?」 「そっ、偶にはいいっしょ」 「そう思って今日はラビ兄と用意してきたの」 「二人で?」 「そうよ。だってユウ兄に言ったって傍観してるだけだろうし」 「でそれなら驚かせようと思って内緒で作ってきたんさ」 「それなら早く帰ろうよっ!」 最近は忙しくて揃ってご飯なんて滅多になかった。 それだけに喜びも大きい。 一緒に帰れるっ! 「じゃあ三十分後に裏玄関に集合ってことで」 「分かった」 「じゃあ後でね」 「うんっ」 勢いよくアレンが走り出そうとした時だった。 「アレン!」 三人に一斉に呼ばれて振り返ると三人ともある場所を指して一言。 「忘れるなよ!」 「あっ………」 漸くアレンはペンタクルがそのままだったことに気がついた。 これでまたあの時のようにそのまま言ったら何て言われるだろうか。 多分きっと少し呆れながらも優しく笑ってくれる。 「分かってるっ」 アレンは笑うとそのまま駆けていった。 楽しいことが好き。 わいわい騒ぐのも大好き。 でもそれだって皆がいるからなんだ。 楽しいのも皆がいるからそう思える。 ここはそんな大切な居場所なんだ。
私凄い楽しかったです。 久々の更新なのに思いっきりパラレル。 Dグレのこのネタは実は前から考えてたんだよね。 設定は前に考えてたやつをちょっと引っ張ってきた。 アレンが好きなんです。 だからやっぱり贔屓してます。