僕の幸せはここにある。






幸せの在処







ある晴れた日マシェルはいつものように家事をしている。

ここコーセルテルでは子竜と精霊、人間以外は住むことはない。

竜術士である人間も一竜族に一人と決められている為八人しかいない。

その為滅多なことでは大きな騒動は起きようがない。

コーセルテルの住人は日々穏やかに暮らしているのだ。

偶に起きる騒動といえば誰かが飛んでて空から落ちただの、誰かが遺跡を壊しただの。

またまたどこぞの子竜が地震を起こしただの、どこかの子竜が毒を盛っただの。

そんなある意味些細な事しか起きない。

まぁ当人達にとってみれば十分些細ではないかもしれないが。

そんな平和なコーセルテルでは大半の人間は子竜の世話で一杯一杯。

子竜達との平和な日常がどうしてか退屈に感じる人間はいないのだ。

それはここでも例外ではない。

「僕そろそろ行こう」

マシェルは箒をしまうと出かける準備を始めた。

今日は子竜達はいない。

それぞれの所へ遊びに行っているのだ。

相変わらずナータは最後まで行こうとはしなかった。

しかしどうしても必要だったらしく迎えにきたエリーゼに引っ張られていった。

ナータってば相変わらずなんだよね。

でも最近は皆の良いお兄ちゃんみたいで嬉しいなぁ。

マシェルといれば術は使えるようにはなる。

同化術はもちろんマシェルがいれば使える。

しかし術士に負担も大きいのであまり多様はしない。

まぁ、マシェルの場合ある人物に怒られるからという理由が一番だったりするが。

同調術だって出来る。

しかしマシェルが預かるのは一竜族ではない。

七種族七竜を預かっているのだ。

その為小さな同調術しか出来ない。

今回は前回と同じくそれの練習も兼ねて遊びに行っているのである。

「夕方になれば皆帰ってくるし、それまでに美味しい物作らなきゃねっ!」

皆練習して疲れて帰ってくるだろうし美味しい物作ってお疲れ様しないとね。

カータは多分遠いし最後だろう。

早いのはアータかサータかな。

ミリュウ兄さんのことだから送ってきてくれるかもしれない。

マータとタータ、ハータはどうだろう。

皆きっと新しく出来るようになった術を見せたくてわくわくして帰ってくるだろうなぁ。

夕飯の時きっと楽しい話を聞かせてくれる。

それがとっても楽しみだ。

そんなことを考えつつ歩いていると村が見えてきた。

コーセルテルでは物々交換が原則。

買い物を済ませて帰る頃にはちょうど良い時間になるはずだ。

手に取ると新鮮な野菜や果物が美味しそうに並んでいる。

これなんか良さそう。

「よしっ」

メニューを決めたらあとは買うだけ。

マシェルは早々に買い物を済ませると帰路についた。





















「さて」

肩から掛けてある布を取る。

髪をもう一度綺麗に結う。

エプロンに着替えればあとは作るだけだ。

そろそろ皆も好き嫌いちょっと直した方が良いよねぇ。

でも嫌いな物嫌々食べさせるのも可哀想だし。

出来るなら美味しく食べて欲しい………。

そうだっ。

今度おやつにでも混ぜてみよう。

そうしたら美味しく食べてくれるかもしれない!

ミリュウ兄さんにも聞いてみようかな。

あっ、でもやめておいた方が良いかも。

そんなことを考えつつも料理はちゃくちゃくと出来上がっていく。

今日はいつもよりも豪華な食事になりそうだ。





















「どうしたんだろう皆………」

夕方、帰って来る時間になっても子竜達はなかなか帰っては来ない。

ちょっと心配だよ。

多分誰かが送ってきてはくれるんだろうけど。

それでも………。

帰ってくるってわかってる。

ここは皆の家だもの。

ここが皆の帰ってくる場所だもん。

絶対帰ってくるって分かってる。

けど………。

それでも時々。

夕暮れを見てるとどうして不安になるんだろう。

皆といる時は綺麗な夕焼けって思う。

なのに一人で見ている今は不安が出てくる。

ここはコーセルテル。

危ないところじゃない。

………そう。

本当は不安なんじゃない。

ただ。

寂しいんだ。

皆といる賑やかさに慣れてしまってこの静寂がちょっとだけ怖い。

一人なのがちょっとだけ恐い。

でも帰ってきてくれた後の賑やかさが大好き。

一人じゃない空間が本当に嬉しい。

「迎えに行こうかなぁ」

でももうちょっとだけ待ってみようか。

「どうしようかな」

でもでもちょっとくらいなら。

「はぁ」

足をブラブラさせる。

暇だと良くやってしまう。

子竜達には止めなさいって教えなきゃなぁ。

ちょっとね。

窓の外を見る。

もう夕焼けも地平線の彼方に行ってしまった。

闇が広がる。

でも闇は恐くない。

だってナータだもの。

夕焼けの後の暗闇はちょっとだけナータみたいに優しい。

こんな事言ったらナータは困ってしまうかな?

「クスクス」

そう思ったらちょっとだけ可笑しくなってきた。

その時だった。

暗闇の向こうで何かが動いた。

何だろう。

瞳を凝らして良く見てみる。

それは山の向こうからこっちへ歩いてきているみたいだった。

随分いっぱいいるみたいだけど………。

何だろう?

「あっ!」

月明かりが照らす。

待ちこがれていた影。

「帰ってきたっ!」

急いでエプロンを外す。

玄関までお迎えしよう!

きっと皆気付いてくれる。

その時を想像して思わず笑ってしまう。

「皆楽しかったかな?」

そうだと嬉しい。

さっきまでの気分はどこへやら。

すっかり楽しくなってきた。

子竜達が帰ってくるのに沈んでなんかいられない。

だってこれから楽しくなるんだから。

さぁ、皆をお迎えしよう。

「皆お帰りなさいっ」

帰ってきてくれてありがとう。















幸せって何だろう。

美味しい物を食べられること?

好きの気持ちがいっぱいあること?

それもとても幸せなことだけど。

でも僕にとっての一番の幸せ。

子竜達と一緒にいること。

子竜達と一緒に何か出来ること。

それは僕にとってとても幸せなこと。

だって僕にとって子竜達はなくてはならない人だから。

だからね。

だから僕にとっての幸せ。

それは。

皆がいて笑ってくれる。

笑って嬉しいをくれる。

嬉しいから幸せになれる。

皆が幸せをつくってくれる。

ここで幸せがつくられている。

つまりそういうこと。

だからここはそう。

そんな幸せの在処なんだ。





















私は凄い楽しかったです。 ついにやってしまいました。 コーセルテル大好きです。 久々にこんなにハマッた。 マシェルがお気に入りです。