楽しいことが好き。 賑やかなのが嬉しい。 だってそれは………。 キラキラ星 ある晴れた日のことです。 今日も今日とて賑やかなコーセルテル。 マシェルはこの賑やかさが大好きだ。 だが、今日から明日の夕方までこの賑やかさは一端お預け。 なぜなら子竜達が他の竜術士の所に練習に行くからである。 最近は子竜達も一人一人で術が使えるようになってきた。 その為今度は同調術の練習をしなければならない。 連携術は大きいものだってあるのだ。 「僕だって頑張らなきゃだね」 いつまでも子竜達がいないと寂しいなんて言ってられない! そりゃ寂しいものは寂しいんだけど………。 でもでも少しは頑張らなきゃっ。 そうこうしてる内に次々とお迎えがやってくる。 お見送りをしているといつもはすぐに来るミリュウが来ない。 どうしたんだろう? ミリュウ兄さんっていつもはすぐに迎えに来るのに………。 その時だった。 「マシェルさんこんにちわ」 「あれ、ジェン」 何故か現れたのはジェンだけ。 「どうしたの?ミリュウ兄さんは?」 「師匠は今日はお留守番なの」 ニコニコと相変わらずジェンは笑ったまま言った。 「えっ!どうしてお留守番?」 「今日の練習に使うものの用意するんだって」 「用意?」 同調術でそんな大げさな用意がいっただろうか? 「用意って言ってもね、ちょうど小箱がなくなちゃっててそれの用意なの」 「あっ、そういうことか。でもミリュウ兄さんらしいといえばらしいかもね」 クスクス思わず笑い合う。 「じゃあサータ連れて行くね」 「うん、よろしくね。サータ良い子にするんだよ」 そう言えばサータは余程楽しみなのかニコニコと今にも飛んでいきそうだ。 「じゃあマシェルさんまた明日」 「よろしくね」 その直後二人は風で飛んでいった。 あれならすぐに着くだろう。 「さて………」 後ろを見る。 「どうしたんだろうメリアさん」 そこにはナータがいた。 本当なら術を使えば一番早く来れるのだ。 ナータはもう一人でも他の皆よりも術が使える。 暗竜術で移動すればそれこそひとっ飛びである。 「いつもならもう来てるのに………」 ふとナータが向こうを見つめる。 「どうしたのナータ?」 そう聞いた瞬間空間に歪みが現れた。 「暗竜術だ!」 ナータが宙に向かって暗竜術を放つ。 それと同時に空間の歪みが広がって向こう側の景色が見えてきた。 「こんにちわマシェルさん………」 「エリーゼッ」 向こう側にいたのは暗竜のエリーゼだった。 「どうしたの、メリアさんは?」 「メリア母さんから………預かってきたの」 スッと差し出されたのは一枚の紙だった。 受け取り見てみるとそこにはお詫びの言葉。 「今日の練習は出来なくなったってことかな?」 その言葉にエリーゼはコクンと軽く頷く。 「メリア母さんの所に………ニアキス族からお願いがあったの………」 「ニアキス族から?」 「何か暗竜がいないと………出来ないことらしくて。それでいつ終わるか分からないからって………」 「それで今日は中止に?」 コクン。 もう一度見てみるとそこには練習が中止になったことへのお詫びとまた今度のお誘いがあった。 「分かった。メリアさんに分かりました、わざわざ有り難うございますって伝えて貰えるかな?」 「分かった………」 「一人で平気?」 「平気………。ナータまた今度ね………」 エリーゼはそのままトコトコと帰っていった。 「残念だったねナータ」 『構わない』 「じゃあ今日はナータと二人っきりだね」 『………』 そう言えばナータと二人っきりなんてナータが来たほんのちょっとの間だけだったなぁ。 あの後すぐにサータが来たし。 でも………。 チラッとナータを見やる。 一見普段と変わらないがどことなく嬉しそうな気がする。 「よしっ」 取りあえずお掃除をしてしまおう。 その後にご飯も作らなきゃ。 「ナータ今日は何食べたい?」 『マシェルの作る物なら何でも良い』 「もうナータったら。今日は皆いないからナータの好きなもの作るよ?」 『………』 ナータは普段から好き嫌いもしない。 手伝いだって本当に良くしてくれる。 最近のナータはお兄ちゃんとして凄く頼れるようになってきたし。 でもね。 いくら皆のお兄ちゃんって言ってもまだ幼竜。 本当はナータだって甘えたい時があると思うんだ。 いつもは皆のお世話をしていて皆から見れば立派なお兄ちゃん。 そりゃ僕から見たってナータは立派にお兄ちゃんだよ。 でもだからこそ。 だからこそ皆の前でなんて甘えられないんじゃないかな。 ていっても普段は皆を止めるのに精一杯で甘えるなんて出来ない気もするけど。 だから皆のいない今日くらい。 今日くらいはお兄ちゃんじゃなくてナータとして好きなことして欲しいんだ。 掃除も終わりあとは夕飯までは暇な時だ。 家にいればあとはゆっくりするだけである。 でも今日は天気も良い。 ピクニックには最適だ。 「ねぇナータ、どこか行く?」 『マシェルが行きたいなら』 「じゃなくてナータはどうしたい?」 『………』 「あのね、今日はナータのやりたいことやろうと思って。いつもナータはしっかりしてるから」 そのご褒美だよ? そう言って微笑めばナータはどことなく困った様子。 まぁナータにすればマシェルが危ないことをせず、マシェルの傍にいられれば他に言うことはない。 だがマシェルは凄く意気込んでいる。 何とかして期待に応えたいところだ。 どうすれば良いのだろう。 ふとその時棚の所に何かが見えた。 『マシェル棚から何か出ている………』 「えっ?」 棚を見る。 すると何か紙らしきものが竜術書からはみ出していた。 「何だろう?」 取りだしてみる。 「痛ッ」 『マシェル?!』 「大丈夫。ちょっと切っただけだよ」 指が切れている。 綺麗に線状に切れたみたいだ。 赤いものが滲んでいる。 良く見ればそれはなにかある程度堅さのある紙のようだ。 ひっくり返してみて分かった。 写真だ。 懐かしいが良く見ればそれはアルバムに入れていたはずのものだった。 「なんでこんな所に?」 でも本当に懐かしい。 ここに僕が本当に来たばかりの頃に写したものだ。 ナータに会ったばかりでミリュウにいることを認められた時。 嬉しくて嬉しくて。 その記念にとミリュウが写したのだ。 『マシェル?』 「あっ、ごめんナータ。つい懐かしくて………」 『それはなんだ?』 「これね、ここに来たばかりの時の写真だよ。見る?」 コクンと頷けばマシェルはそれを渡す。 見ればナータにとっても懐かしい、忘れられない時のマシェルが写っていた。 あの時に竜術士になるとくれた約束が今果たされている。 そう思うと思わず嬉しくなってくる。 「ナータ?」 『マシェル………』 「なぁに?ナータ」 『やりたいことをしてくれるのか?』 「うんっ」 そう問えばマシェルはとても嬉しそうに頷く。 『じゃあ聞かせて欲しい………』 「何を?」 『この写真の時のこととか、卵から孵るまでのマシェルのこと』 「そんなことでいいの?」 『それが良い』 いくら卵の時から術が使えていたとはいえいつもいつも見ていられたわけじゃない。 知らないことがきっとたくさんある。 ミリュウだけが気づけたマシェルの不調。 それに気づけなかったこと。 ミリュウが気づけたのに気づけなかったことが凄く悔しかった。 だから………。 「分かった!じゃあアルバムも取ってくるからちょっと待っててね」 パタパタ パタパタ。 早歩きでマシェルは部屋に行ってしまった。 ナータは取りあえず座って待つ。 暫くするとアルバムを数冊持ってマシェルが戻ってきた。 「おいでナータ」 それに近づけばマシェルはナータを抱き上げた。 膝の上にそのまま優しく座らせる。 机の上にアルバムを広げて後ろからはマシェルの優しい音が聞こえる。 部屋の暖かさよりも暖かい温もりに包まれる。 ゆったりゆっくり過ぎていく。 とてもとても優しい時間。 それがとても嬉しくて。 ナータはマシェルに見えないようにそっと笑った。 夜、夕飯も済んであとは寝るだけという時だった。 ナータはいつもの子竜達の部屋に戻ると寝る準備を始めた。 コンコン。 突然部屋の扉が叩かれた。 誰、なんて聞かなくてもここにはあと一人しかいない。 「ナータ起きてる?」 案の定マシェルだった。 『どうかしたのか?』 「えっと………」 聞けばマシェルはどこかモゴモゴと言いにくそうにしている。 「あのね」 ふと見ればマシェルは後ろに何か持っているようである。 まさか………。 「あのね、偶には一緒に寝ないナータ?」 やっぱり………。 恥ずかしそうにしていた理由はこれか。 大方いつもの賑やかさがなくて寂しくなって来たのだろう。 マシェルは本当に寂しがり屋だから。 「ナータ………?」 返事がないことを不安に思ったのかマシェルが問うてきた。 それに肯定の返事でコクンと頷けば途端嬉しそうに笑う。 「ありがとうっ、ナータ!」 ここだと狭いからあっちに行こう。 僕とナータだけならあのベットで平気だよね。 そう言って嬉しそうに歩いていく。 「お休みナータ」 『お休みマシェル………』 部屋の明かりを消せば闇が部屋を支配した。 闇は怖くない。 暗竜は暗闇を司る竜なのだ。 だから怖くはない。 本当に怖いものを知っているから………。 「すー」 隣を見れば既にマシェルは眠っていた。 いつの間にかナータはマシェルに抱きしめられていた。 卵の中にいる時よりももっと安息を感じる。 ふと空を見上げるとキラキラと星が輝いている。 いつもはあまり感じない星の輝き。 どうしてだろう。 そこで思い至った。 そうだ、皆がいたからだ。 いつもはサータが騒いだり皆で遊んだりして眠る前までも賑やかさが消えることはない。 だが今日は皆がいない。 『ふ………』 そういうことか。 マシェルの気持ちがちょっとだけ分かる気がする。 前はこんな風に思うなんて思ってもみなかった。 ここに来たばかりの時は皆が邪魔でしょうがなかった。 マシェルを取られた気がして悔しくて。 どうにかして邪魔な皆をどこかへやってしまいたかった。 それがどうだろう。 今はちょっと。 皆がいないのが少しだけ。 ………寂しいなんて。 そんなこと思うなんて。 でも決して悪くはない。 むしろ悪いどころかちょっとくすぐったささえ感じる。 マシェルの言っていた意味が今なら分かる気がする。 そんなことを考えている内にナータはいつの間にか眠りについていた。 「んっ………」 マシェルがふと起きると既にナータはぐっすりと眠っていた。 「いつもお兄ちゃんお疲れ様ナータ………」 起こさないように優しく一撫ですると微かにナータが笑った気がした。 「クスクス」 明日は皆が帰ってくる。 頑張ってお迎えしなくちゃね。 だからそれまでは。 ゆっくりお休み。 楽しいのが好き。 賑やかなのが嬉しい。 だってそれは皆がいるからで。 僕はそれが嬉しい。 寂しいのを少しは何とかしようと思ったけど。 でもやっぱり寂しくなっちゃう。 でもまだそれでも良いかなって思う。 だって皆がいてくれるから。 皆と一緒に少しずつやっていこう。 そう思うんだ。
私ふと思ったんです。 良く考えたら写真はあるんだろうか。 コーセルテルってあってもいいと思うんです。 でも何か光はランプだったり物々交換だったりとない気がしなくもない。 マシェルは絶対写真とか好きだと思うんです。 思い出とか大切にしそう。