僕にとっての初恋の甘い思い出はとてもとても優しいモノなんだ。







ふわふわのハツコイ











マシェルはその日とても楽しかった。

天気も良いし、子竜達は仲良く遊んでいる。

先ほどなど皆で花冠を作って渡しに来てくれた。

それも嬉しくて今日のおやつはちょっと豪華にしようと考えた。

「僕が呼んだら来てね」

ナータに一言そう言うと彼はコクリと頷いて肯定の意を示した。

今日のおやつは何にしようかな?

昨日はクッキーだったし、この前はタルトケーキだったかな。

よしっ。

今日はクリームたっぷりのケーキにしよう!

そうと決まればである。

まずは生地を作らなければ。

確かこの間カディオさんがくれたケーキのレシピがどこかにあったはず。

「本棚のところだったかな?」

ガサゴソと探しているとふと古い本が視界に入った。

見覚えのあるその装丁に思わずひっぱてみる。

するとそれは見覚えがあって当たり前のものだった。

「これ昔の日記帳だ………」

ここに来て暫く経った頃ミリュウが文字の練習用か何かに与えた物だった。

あの頃はそこまで文字とか知らなくて兄さんが練習にって貰ってきてくれたんだっけ。

懐かしいなぁ。

その時にふっとマシェルは思い出した。

そういえば………。

僕の初恋の相手ってミリュウ兄さんだったよなぁ。























小さい頃は何も知らなくて。

ここは外と違うから仕方がないけれど。

愛は知っていた。

それはもちろん恋愛ではないけれど。

家族がくれる愛がその時は一番欲しいものだった。

だから恋を知らなかった。

童話の中ではお姫様と王子様が恋をして愛しあう。

そんな事くらいしか知らなかった。

だから『コイ』がなんなのか知りたかった。

それはただの子供の好奇心。

知らないから、楽しそうだから。

そんな理由だった。

まずはミリュウ兄さんに聞いてみた。

けど兄さんも良く解ってないのか何なのかはぐらかされてしまった。

でもそれくらいじゃ諦めなかった。

次はノーセさんに聞いてみた。

でも言っていることが難しくて半分くらいしか解らなかった。

でも解ったこともあった。

ひとつは愛にはいっぱい種類があるんだってこと。

次に『アイ』しているって言うのは大好きだってことなんだということ。

そして『アイ』するということの前にするのが『コイ』なんだってこと。

もっともっと知りたくて今度はクルヤさんに聞いた。

そしたらクルヤさんは楽しそうに教えてくれた。

今考えたら半分くらいからかわれていた気がしないでもないけど。

取りあえず『コイ』についてその時はとっても知っている気がしたんだ。































家に帰ってからもっと良く『コイ』について考えてみた。

『コイ』は家族じゃない人を好きになること。

『コイ』をした人と一緒にいるととても楽しくて嬉しいらしいこと。

そして。

『コイ』をしているとその人と一緒にいたいと思うんだってこと。

だから思ったんだ。

僕はじゃあミリュウ兄さんに『コイ』をしているんじゃないか。

今思えばどうしてそう思ったのか解らない。

子供の考えることなんてそんなものだけど。

だって兄さんは家族だし。

そりゃ連れてきて貰ったから本当の家族ではないけれど。

それでも家族には変わりない。

でもその時に大切だったのは一緒にいるということ。

嬉しかったり楽しかったり一緒にいたいと思ったり。

それが『コイ』をしているってことなんだと思ってた。

それは違わないんだけど。


























「兄さんのおヨメさんにして、なんて良く言ったよなぁ」

そう、あの後童話を思い出して兄さんに告白しにいった。

兄さんのおヨメさんにして下さい、と。

本当は童話では王子様がお姫様に告白するところだ。

しかしそこは小さな子供。

童話では好きと言っていたくらいにしか思っていない。

男の子はなれないとか、第一色々ずれているとか。

そんなことは後から教えて貰って知ったことだ。

でもあの時兄さんはそれを知っていたはずなのにとても嬉しそうだった。

多分それは好きと言われたのが嬉しかったからだと思う。

僕だって子竜達からそんなこと言われたら本当に嬉しい。

そんな気持ちだったんじゃないかな。

ただあの後暫くは兄さんのおヨメさんにしてって良く言っていた。

そうしたら一緒に居られると思ったから。

その時はまだ時々不安で。

僕は本当にここにいても良いんだろうかって。

一人になるとふと考えていた。

もちろんここに居たかった。

ナータに竜術師になると言ったし、何よりここが好きだった。

だから兄さんのおヨメさんにしてって言った。

ここにいても良いんだって思いたかったから。

途中からそんな事を思って言っていた。

もちろん初めは本当に好きだと思ったから言い始めたことなんだけど。

まぁ、ある時にそんな不安はどこかへ行ってしまったけどね。

それからは言わなくなった。

代わりに好きって言った。

いっぱいいっぱい好きって言った。

それだけでも伝わるって解ったから。

「さてと………」

日記帳を閉じる。

レシピを見つけて早くケーキを作ろう。

「よしっ」

今度兄さんに会ったら久しぶりに言ってみようか。

大好きだよってね。

































初恋なんてそれぞれで。

それは人から見れば初恋でも何でもないかも知れない。

でもそれでも。

あの時感じた好きの気持ち。

僕にとっては『ハツコイ』なんだ。

甘い感情ではなかったけれど。

ふわふわふわふわ優しい気持ち。

覚えていたいって思うんだ。


















私凄い楽しかったです。 やっぱりなければ作ればいいんだよねっ。 コーセルテルにどんな本があるのかは知らないです。 でもやっぱり本はあるし、こういうことってありそう。 マシェルは好きとかそういうのは聡いと思うんです。 ただこういうのがにぶにぶなだけです。