お下がり 「っくしゅん!」 「何だ、アレン風邪か?」 小さい塊が隣でくしゃみをした。 冬もまっただ中のこの時期、アレンと出会って1週間が過ぎた。 会った日にも雪が降っていたので分かると思うが、この街は雪がたくさん降る地方に入るのだそうだ。 だから、俺達みたいな子どもはこの冬を越せるのか、という疑問は常に付きまとう。 普段から命がけの生活をしているが、それでもいつもこの時期には不安になる。 朝起きたら俺は死んじゃってるんじゃないか、たった1人で寒さに耐えなきゃいけないのか、って。 だから同じストリートチルドレンの中でも、この時期は身を寄せ合って夜を越すことが多い。 1人よりも大勢でいる方が暖かいし、凍死の心配も減る。 元々皆捨てられたヤツが多いからプライドなんてない。 ってゆうかプライドなんて言ってられない。 そうやって死んでいったヤツを俺は嫌って程知っている。 ここで、この世界で生き残る為には明るい世界で生きている奴らみたいなことは到底無理。 そりゃ1回も憧れたことが無いと言えば…、それはウソになるけど。 ………取りあえず今は生き残ることだけを考えないとな! 「ひっちゅん!!」 「アレン、やっぱ風邪じゃね?」 アレンは必死に首を横に振る。 <<大丈夫>> そういって笑った。 どうやら考え事をしていた様だ。 ちなみに俺等が今居るのはこの間の路地裏の少し入った所。 ここら辺はよっぽどのことがない限り大人達は入っては来ない。 表の世界の人間は然り。 俺達は身を寄せ合って寒さを凌いでいた。 「なぁ、アレン寒くね?」 その言葉にアレンはコクリと頷いた。 「もっとこっち来いよ」 そう言ってアレンを引き寄せる。 ………その冷たさに心が痛んだ。 よく子ども体温なんて言うけれど、…それは普通の世界で生きている幸せな奴らの戯れ言だ。 現にアレンの体は服越しでも分かるくらいに冷えきってしまっている。 まぁ、たぶん自分も同じくらい冷たいのだろうが。 こういう時に冬眠出来る熊に憧れる。 どうしたら体温を逃がさずにすむ?どうしたら凍えないですむ? 懸命に考える。 「あっ…!」 ふとそこで1つのことを思い出した。 「アレン!ちょっとここで待ってて!」 「………?」 「すぐ戻って来るからさ!」 そう言って途端走り出す。 そうだ、うっかり忘れていた。 有る場所にあるあるモノの存在を。 確かここら辺だったはずっ…、あった! ラビはある倉庫へと駆け寄った。 「え〜っと、確かこの辺に……あった!」 そう言ってラビはあるものを瓦礫の中から引っ張り出す。 そして一息吐く間もなく急いでアレンの元へと駆けていった。 暫く走ると元居た場所が見えてきた。 アレンはラビに言われた通りに、そこでじっと寒さに耐えていた。 「アレン!」 言って駆け寄ると、アレンは嬉しそうに笑いながら迎えてくれた。 「ごめんな、急に1人にして」 アレンはそんなことない、とばかりに首を振る。 「これ、…取りに行ってたんさ」 「………?」 「ちょっと後ろ向いて?」 訳が分からなかったが、取りあえず後ろを向いてみる。 ふわっ 瞬間…、何か暖かいモノが首を取り巻く。 慌てて後ろを振り返ると、満面の笑顔のラビが居た。 <<これ………?>> 「あ、あぁ、これな、俺が昔此処に来たばっかりの頃に使ってたマフラー」 <<………いいの?>> 「いいんさ!実はそれもうちっちゃくて、でも捨てるに捨てられなくてさ」 <<大事なモノなんじゃないの?>> 「…ん〜、……分かんね!でも分かんないけど捨てられなくて、でももう俺じゃ使えないしさ…」 一拍置いて思い切り笑って言った。 「だからアレンに使って欲しいんさ!」 「………っ!」 「あっ、それともお古じゃ嫌だった?」 アレンは必死に首を振る。 思わず見ていて笑いたくなった。 なんか…、体だけじゃなくて……、何か暖かいさ…。 「…あっ、それとこれも途中で拾ってきたんさ!」 と、どこに持っていたのか小さな、といっても子ども2人がくるまるには十分な大きさの毛布を広げて見せた。 「これにくるまれば何とか夜も越せるさ!なんせ2人もいるんだからな!」 言うが早いか、アレンを毛布の中に引きずり込む。 2人でぴったりとくっついて。何だかアレンも自分もさっきより暖かくなった気がした。 それは決して毛布とかだけのお陰じゃなくて…。 クイ クイ 「ん、何さ、アレン?」 <<あ、あのね…>> 見上げて満面の笑みで笑う。 <<ありがとうっ…!>> 2人の夜は少しだけいつもより暖かかった。
今回の題名、お下がりで、何かアレンにお下がり出来るモノ………。 お下がり→年上→ラビ→マフラー? ってな感じです(笑)! いいのか、それで……。