案の定、家は大騒ぎになった。
















Little!! 2














「ただいま〜」

家に着いた頃には、もう既に辺りは暗闇に支配されていた。

焔はどうやって説明しようかと恐る恐るドアを開けた。

夕飯の支度をしているのか、家の中からはご飯の匂いが漂ってきている。

自然とお腹が空くのを感じた。

腕の中の陣を見ると、疲れてしまったのか寝息を立てている。

「全く、気楽なもんだよな」

そんな焔の気持ちも知らず、陣は気持ち良さそうに寝ている。

「ちょっとあんた達、いつまで玄関にいるつもり〜?」

全然居間に来ない息子2人を不審に思い、母が台所から顔を出した。

すると、そこで当然の疑問を見つける。

「あら?焔、陣はどうしたの?」

きた〜っ!

さて、どうやって説明しようか。

素直に事の経過を話すべきか、まず陣を見せるべきか。

そんなことを考えている内に、母がこちらに近づいて来ていた。

「何?何かあったの?って、焔、あんた何持ってんの?」

母は、明らかに様子のおかしい焔がずっと抱えているものを覗き込んだ。

「あっ!」

焔が止めようとした時には、既に手遅れで。

「え、ええええええっっっっっっっ???!!!」

結果、等軍家には母の絶叫が響き渡ることになった。


































「で、どういうことか説明してちょうだい」

あの後、母の悲鳴を聞きつけた綾が慌てて玄関まで駆けつけて来た。

そして母と同様に陣の姿を見た。

さすがに母の様な悲鳴は上げなかったが、それでも驚いてるのは明らかで。

「陣………君………?」

それしか言えなかった。

何とか母を落ち着けて、居間まで来て、そして今に至る。

「説明って言われても………、どこから説明したらいいのか………」

「ねぇ焔君、この子…本当に陣君なんだよね……?」

まだ信じられないと言った感じで綾が聞いてきた。

それはそうだろう。

朝は普通に小学5年生の姿だったのに、帰って来たら2〜3歳の子供になっていたのだ。

信じろという方が無理な話だろう。

だが、それはあくまでも一般家庭だったらの話で。

実際、この等軍家ではあり得ない話ではないのだ。

「そうだよ。凶の放った光に当てられて、気が付いたらこうなっていたんだ」

「それじゃあ、陣君は昔の姿に戻されちゃった、ってこと…?」

「うん、そういうことになると思う」

「じゃあ、これって本当の本当に陣なのね…?」

「うん」

「はぁ〜、何やってんのかしらこの子」

「俺は止めろって止めたんだけど…」

「はぁ〜」

どうあがいてもこの子供が陣ということに変わりはなくて。

母と焔は大きな溜息を吐いた。

その時、あの騒ぎでも起きなかった陣の目がうっすらと開かれた。

「ん〜………」

陣は目を何度か擦ると、辺りを見回しはじめた。

慌てたのは焔である。

またあんなに盛大に泣かれたらっ…、考えただけでも疲れてくる。

しかし、そんな焔の考えなんてお構いなしに陣の視線はある人で止まっていた。

「あ〜っ!ままぁ〜っ!!」

陣は母を見つけると、焔の腕の中でジタバタと動き出した。

「へっ?!あ、あたしっ?!」

突然呼ばれた母は、急なためかすぐには対応出来ずにいた。

そんなことは関係なしに、陣は母に手を伸ばしていた。

暴れる陣を落とさないようにと、焔は必死に抱えている。

「か、母さんっ!なんとかしてっ!!」

「えぇっ!!!な、なんとかって言われても………」

「ままぁ〜っ!」

突然のことに未だ頭がついていっていない母と、陣を落とさないように必死な焔。

そして、周りのことはお構いなしに暴れ続ける陣と。

パニックがパニックを呼んで、家の中はまさに大混乱状態になった。

パンッ パンッ!!!

「ストップッ!皆、落ち着いてっ!!!」

音と共にした言葉の主の方を振り返れば、そこにいたには綾だった。

その音に驚いた母と焔は、取りあえずその場に落ち着いた。

「少し落ち着いて考えましょう、おばさん。焔君、もう一度こうなった訳を説明してくれる?」

「あっ、う、うん。」

綾に言われて陣が小さくなった経緯を今度は順を追って話し始めた。

そして、陣の記憶が2〜3歳頃まで戻ってしまっていることも。

「ということは、陣君がこの中で唯一判別出来るのはおばさんのみ、ってことか…」

「たぶんね…」

大人と子供では成長の速度が全く違ってくる。

当時と母はほとんど変わってはいないだろうが、焔は違う。

多少面影はあろうが、その頃と比べれば当然身長だって伸びたし、顔つきだって大人っぽくなった。

そんな焔をいくら兄とはいえ、幼い陣には到底分かるはずもなく。

そしてそれは綾に対してもまた然りで、当然彼のことだって分かりはしない。

なにせ綾が来たのはつい最近、陣が小さくなってしまう前のことなのだから。

「取りあえず、今は母さんだけが頼みの綱なんだ」

「はぁ〜、全く…。しょうがないわね。お父さんが帰ってくるまでは昔に戻った気でやるかっ!」

「おばさん、立ち直り早いですね…」

「あら、こんなことでいちいちクヨクヨしてたら等軍家の母なんてやってられないわよっv」

流石というかなんというか………。

まさしく、母は強しである。

「ん〜」

と、それまで大人しくしていた陣が急に焔の腕の中で呻きだした。

何だろうと思い見てみると、また今にもぐずり出しそうな感じがする。

焔はヤバイッ、と本能的に悟った。

そう思った瞬間、ふと腕が軽くなった。

「ほ〜ら陣、泣かないのよ〜。どうしたの?お腹空いた?」

既に陣の姿は焔の腕の中には無く、母がしっかりと抱きしめていた。

母はあやすように優しく問いかけると、腕の中の陣に微笑みかけた。

すると安心したのか、陣は母にぎゅっと抱きついた。

おそらく不安だったのだろう。

気が付くと家には帰って来ていたが、いつも抱きしめてくれる母がそれをしてくれず、

周りの人達は何か自分には分からないことをあまりにも深刻に話し合っているものだから。

ひょっとしたら、何かいけない事をして怒られるのかもしれない…。

そう思ってしまったのだろう。

現に今の陣の表情を見れば一目瞭然だ。

「まぁまぁ〜、じんねぇ、おなかしゅいたの〜」

「そっかぁ、じゃあご飯にしましょうねぇ〜」

「あ〜いっ!」

母さんってやっぱり母さんなんだなぁ、と思わず当たり前のことが頭を過ぎる。

順応の早さもさることながらここまで自然に振る舞える母を目の当たりにして、焔はなんとなしに感心してしまった。

やっぱりこうしてみると母さんってすごいかも………。

「あえっ?おにぃたん?」

「えっ?!」

突然呼ばれて心臓が飛び跳ねた。

(そういえば、俺って陣にまだ俺の事ちゃんと説明してない気が………)

案の定、その考えは見事的中した。

「おにぃたん、なんでじんのおうちいうの?ねぇ〜、ままぁ〜」

陣は全く分からないという風に首を傾げた。

これは………、どう説明すべきか………?

しかし、問われた当の母は少し考えてから、それでもさも平然として答えた。

「このお兄ちゃんはねぇ、陣のお兄ちゃんよ?陣ったら忘れちゃったの?」

「ちょっ?!母さん?!」

「う〜?じんのおにいたん?」

これに焦ったのは焔である。

自分が名乗った時にすら気付かなかったのに、それをどうやって納得させる気なんだろう?

幼くなった陣に事実を示してみても、当然理解出来るはずもない。

「ちあうよぉ〜、えんくんはこんなにおにぃたんじゃにゃいお〜?」

「か、母さん…」

「それはねぇ、焔君は大きくなったから、こんなにお兄ちゃんなのよ」

ズルッ

なんつーアバウトな、且つ取って付けた様な説明………。

こんなんで納得するとは思えない………。

「母さん、いくらなんでもそれじゃあ………」

「しゅっごぉいっ!!!おにいたんおっきくなちゃったのぉ〜!!!」

ゴンッ

嘘だろ………納得しやがった………。

無茶苦茶な説明をした母とそれをなんの疑問も持たずに納得してしまった無茶苦茶な弟………。

思わず机と挨拶してしまった焔は、この無茶苦茶な家族を果てしなく疑問に思った。

母がすごいのか、陣が単純なだけか………。

そんなことを考えているうちに、気付けば陣が母の腕から抜け出して焔の前まで駆けてきていた。

そして焔をじぃっと見つめると、何かに納得したのかにぱっと笑い、

「おにいたんっ!」

そう言って今度は焔の足にギュッと抱きついた。

「ぅわっ」

突然のことに焔はバランスを崩しかけたが、相手が小さかったため、そこまで威力が無かったので助かった。

「あはは、じゃあご飯にしましょうか」

「あ〜いっ!………あえ?」

「どうしたんだ陣?」

「あにょおにぃたんはだあえ?」

陣が指差した方向にいたのは、先程までずっと事の成り行きを傍観していた綾であった。

「………僕?僕はね、綾人って言うんだ。綾でいいよ。よろしくね、陣君」

「あう〜、あやぁ〜?」

「そうだよ陣君」

「あやっ!」

「クスッ、えらいね、一回で言えるようになって」

「うんっvえあい〜vv」

陣は褒めて貰ったことが嬉しかったらしく、満面の笑顔で綾に笑いかける。

だがそれよりも焔が驚いたのは、綾の対応の仕方だ。

誰が説明するよりも早く、そして何でも無いという様に陣の質問に答えてしまった。

ある意味、母よりもすごい………。

「さあ、問題も解決したことだし、本当にご飯にしましょっ」

「あ〜いっ!」

「そうだね………」

「お腹空いたしね」

こうして焔の精神を削りつつ、夕食までようやっと辿り着いたのだった。