温もり 5
















ただ今の時刻、夜の12時過ぎ。

あの後陣に取り憑いている霊の正体を探るため、

父から緊急指令を命じられた。

まぁ、そうでなくても陣の

「男なのにいつまでも女装させられてたまるかぁっーーー!!!」

という強い希望があったため、もともと調べる予定だったのだ。

そして今はというと、

とりあえずどこで霊が聞いているか分からないので、

陣には調べるのは明日からといって、陣以外は寝たふりをしている。

何も知らない陣はとうに眠りについている。

狂達にはすべて話してある。

もしも何かが起こった時に、焔一人では危険だということで。

父からも一応指令を出した。

霊の正体を見つけ 光へと導け、と。

布団に入って早数時間、まだ陣に動きは見られない。

そろそろ焔も眠たくなってきた頃だった。

ゴソッ ギシ ギシ キィ

(う、動いたっ!)

「狂君、杏姉、響さんっ!」

「あぁ」

「動いたようだね」

「………」

「行こうっ!」

「行くで、…狂…?」

「………」

「狂君?」

「………」

「狂?」

「………」

三人が何度呼びかけても、一向に起きようとしない狂。

不思議に思い杏が様子を見るために狂がいるベットに近づいた。

「………。ぬぁに本気で寝とんのじゃ、おのれはっーーー!!!」

「んぁ〜………、なんだよぉ〜、杏姉ぇ〜………」

「何じゃないわっ!指令忘れたんかい、このボケッ!!!」

「ん〜、しれえ〜?………おぼえてるよぉ〜、…だからあと五分〜………」

「やっぱり忘れてんやないかいっ、このガキッ!!!」

寝惚けて起きようとしない狂を無理矢理ベットから引き剥がす。

「やぁ〜…、ねえちゃ〜ん………ねむいよぉ〜………」

「いいから起きんかい!!!」

昼間は元気いっぱいでも、狂はこの中では一番年下なのだ。

夜はさすがに他の子供達よりも眠くなるのが早くて当然である。

そんな狂の手を杏が握りながら、ドアの所まで歩かせて来た。

「杏姉って、面倒見いいんだね…」

「あぁ、意外にね」

「さっさと行くで!陣見失ってまうっ!!」

「あっ、そうだった!」

杏の言葉で思い出し、急いで辺りを見回した。

すると窓から昨日と同じく人影が見えた。

「あっ、あれじゃないかっ?」

「たぶん!早く追いかけようっ!!!」

こうして、霊の正体を探るための調査がようやく始まった。







































昨日と同じく陣を見つけて、見つからぬように後をつけた。

今日は満月らしくこの間のように辺りが暗いわけではない。

むしろ、陣の格好など、辺りがよく見えるくらい明るい。

今の陣を見てそれぞれが言葉をこぼした。

「何度見ても慣れない…、…慣れたくないけど…」

「あれが本当に陣君…?」

「まるっきり女の子やないか…」

「………って、うっわ、何あれ?!」

「ようやく起きたんかい…」

さっきまで寝惚けていた狂もさすがに陣の格好を目の当たりにして

ようやく目が覚めたようだ。

杏はというと、ここまで来なければ起きなかった弟に

呆れた、という感じの深いため息をついた。

「あれ、ホントに陣なのか?どーみても女じゃん…」

「昼間説明した通りだよ。あれは本当に陣なんだ。取り憑かれてるけど…」

「霊ってあんなことも出来るもんなのか?」

「さぁな、わからん。だからそれを調査するんやろ」

「う〜ん、にしても………笑える………」

「…はっ?!」

「だ、だってあの陣が、だぜ?ぶくくっ、スッゲー笑える!」

「まぁ、あの陣が、やもんな…。フッ、カメラ持ってくんやった…」

「ちょっ、二人ともっ!」

二人は、陣が女装していた姿がツボにはまったらしく、

それでも陣に気付かれないように声を殺して笑っていた。

「あっ!三人共!ちょっとこっち来てっ!」

「どうしたの、響さん?」

一人陣を見ていた響が後ろの脱線しまくっている三人を急に呼んだ。

なにやら慌てた感じで、どうしたのかと思う。

「なんかあったんか?」

「ちょっと…、危ないかもしれないね…」

「へっ、何が?」

「よくあっちの方見てごらん」

そう言われて陣の方をよく見てみる。

「あっ!」

「なんだ、あれ?」

「ちょう見してみ」

視界の先には陣と…見慣れぬ数人の男達。

年の頃は14,5歳といったところか。

「なぁ杏姉、あれって…?」

「………ナンパ………やろか?」

「たぶん………」

「そうだろうね………」

「ふ〜ん、………って、ナンパーーー?!」

「シッ!声がでかいわっ!!!」

「あ、ご、ごめんっ。で、でも…ナンパって………」

「あの顔見るからにそうやろな。なんや、やらしい顔しおって」

「なんでナンパするヤツがやらしい顔してんだ?」

「はっ?そりゃあ………」

何気ない狂の問いかけに、答えようとした杏は途中で言葉を止めた。

そしていきなり、

「な、何女の子の口から言わせる気やねんっ!!!」

真っ赤になって狂を勢いよく突き飛ばした。

(な、なにを想像したんだ、杏姉………)

いきなり突き飛ばされた狂はますます訳が分からないといった感じだ。

そして、杏の言いたい事が何となく分かってしまい、

なぜかつられて照れる残り二名。

「コホンッ、と、とにかくどうしようか?」

「ここで俺達が出てくと陣にも気付かれるよね」

「ん〜、どないしよか」

「あっーーー!!!」

「ど、どないしたんや、狂?」

「あいつら、陣に近づいてってるぜ!」

「何っ?!」

狂に言われてそちらを見れば、先程の男達が陣にしゃべりながら近づき、

ちょうど陣に話しかけているところだった。

「どうしする?」

「このまま放っとくわけにもいかんやろ?」

「だね…」

「それじゃあ…」

四人は意を決して陣に近づこうとした。



















その時だった。









































「キャッーーーーーーー!!!!!!!!」












































「!!!!!」

突然陣が悲鳴をあげた。

それも普通の悲鳴ではない。

何かを恐がっているような、そんな悲鳴。

四人は何かあったのかと驚き、急いで陣に駆け寄った。

「お前達!その子になにしたんだっ!」

急に後ろから怒鳴られて、驚いた男達は困惑の表情を浮かべた。

「な、何もしてねぇよっ!なぁ!」

「あ、あぁ。ただ、腕を掴んだだけだよ」

「それが原因やないんかっ!」

「あ、あれ位で普通あんな悲鳴あげるかよっ!」

「そ、そうだよっ!なぁ、もう行こうぜ?」

「あ、あぁ」

男達はそう言うとそそくさと逃げていってしまった。

「二度と来んじゃねぇっ!」

彼らがいなくなるのを確認すると、陣の方に振り返る。

陣はその場に座り込んでいた。

俯いていて顔は見えないが、体が小刻みに震えている。

「大丈夫か、陣?」

そう言って焔が陣の肩に手を置いた。

























―瞬間―










































―ひとつの記憶が重なった………―















































「いやっーーーーーーー!!!!!!!!!!」





























































陣は体をビクッと跳ね上げたかと思うと、

尋常ではない悲鳴をあげた。

そして、俯いたまま悲鳴の様な声をあげた。












































「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!

 みんな、みんな私が悪いのっ!!

 ごめんなさいっ!父様ッ!母様ッ!

 お願いだからぶたないでっ!!

 私は、水鳥は次でいいからっ!

 兄様のッ、紫鳥兄様の次でいいからっ!

 だからっ…!お願いだからっ…!!!」











































「嫌いにならないでっ………!!!」









































「……………………」

いきなり叫びだした陣に、正確には、陣に取り憑いている霊が

悲鳴にも似た叫びをあげた。

四人はその場から動かなかった。

いや、動けなかった。

突然の出来事に頭がついていかない。

それでもなんとかしようと、焔は陣の肩に再び手を置いた。

「………ッ!!!」

すると陣は先程よりも大きく跳ね上がり、顔を上げたかと思うと、

急に走り出した。

「あっ………!」

焔は止めることが出来ず、しばらくの間、全員が固まったままでいた。

「今の………」

「こ、こんなことしてる場合ちゃうっ!陣追っかけなっ!」

「あっ!そうだったっ!」

杏の一言で全員我に返り、慌てて陣の後を追いかける。

すると、100メートルも行かない所で陣が倒れていた。

その格好はすでに陣の物に戻っていた。

「陣っ!!!」

慌てて駆け寄ると、焔は陣の上半身を抱き起こした。

「陣っ!しっかりしろっ、陣っ!!」

「………ぅん………、えんにぃ………?」

「大丈夫か?」

「おれ………、どうしてこんなとこに………?」

「霊が現れたんだ。…どうした?」

まだ意識がぼんやりしているのだろう。

焔の話を聞いてはいるが、分かってはいないようだ。

陣はなにかを伝えるためか、呟くように言った。

「おれ、…またゆめみた…」

「えっ!!!ど、どんな夢だったっ?」

「さいしょ、きがついたらへんなへやにいた…。

 そしたら…おれにむかってだれかがなんかいってた…。

 それで…なぐられそうになって………。

 なんかいっぱいなんかさけんだ………。

 でも、おれのことばじゃなくて………。

 だれかほかのやつがおれのくちでいってるみたいだった………。

 そこでめがさめたんだ………」

「………っ!!!」

「えんにぃ………?」

「さっき言ってたのって、まさか………」

「なぁ、焔。さっき霊が叫んどったのって…」

「うん、たぶん…これのことだと思う………」

「えんにぃ………」

「あっ、なんだ、陣?」

「おれ、………なんか……めぇあけてらんねぇ………」

「えっ?!おい、陣っ!」

そう言うと陣は眠ってしまった。

「じ、陣のやつどうしたんだっ?!」

「大丈夫、眠ってるだけだよ」

「それにしても…、一体どうなってんのや?」

「わからない、詳しく調べてみないことには………」

「とりあえず、いったん戻ろう。ここではどうにもならないだろうし………」

「そうやな」

「陣どうする?」

「俺がおぶってくよ」

「ほな、行こか」

こうして五人はペンションに戻って行った。

多くの謎と新たな疑問を残して………。