温もり 6








ペンションに戻るとまずは陣をベットに寝かせた。

そして今日はもうこれ以上霊も動き出すことはないということで、各自いったん休むことになった。

初めのうちは眠れそうもなかったのだが、やはりだんだんと瞼が重くなってきて。

気が付けば、全員眠りについていた。























翌朝、焔達は朝食を取ると、すぐに出発した。

目的地はここにある図書館だ。

「こんなとこでも図書館ってあるんやなぁ」

「そうだね」

「なぁ焔、なんで図書館なんか目指してんだ?」

「えっ、ああ。少し情報収集しようかと思ってね」

「情報収集?」

「そう、昨日陣が言ってた事とかあるだろ?もしかしたら霊に関して何かわかるかもしれないしね」

「???」

「ん〜と、つまりね…」

「つまり焔はあの霊は自縛霊かなんかの類やいうんか?」

「う〜ん、まだはっきりとは言えないけど…」

「でも、確かに図書館か何かに行けば何かわかるかもしれないね。

 あそこなら新聞とかあるし、昔の事も多少なりとわかるから」

「う〜ん、なんかよくわかんねぇけど…。とりあえず行けばいいんだろ?」

そう言うと狂は勢いよく走り出した。

「ちょっ、待ちやっ、狂っ!!あんた道知らへんやろっ!!!」

そんな杏の言葉も届いているのかいないのか。

ともかく一行は図書館への道を進んで行った。






























着くとそこは図書館というよりも、少し古くて大きめの民家か喫茶店といった感じだった。

ここ本当に図書館なのか、という疑問を抱えつつも中に入ってみる。

だが意外にも中は綺麗で、たくさんの蔵書が揃っていた。

「すごい…」

「ものは見かけによらへんな…」

「それを言うなら、人は見かけによらない、じゃ…?」

「やかましいっ」

「ってっ!」

そんな会話を交わしつつ、しかし、そんなことばかりもしていられないので、

早速調べ物に取り掛かる。

焔と杏は図書館にある蔵書を、狂と響は現在、過去問わず置いてある新聞紙を。

それぞれ関係のありそうなものをしらみつぶしに探していった。

「とりあえず、ここら辺のことが書いてあるものを探そう」

「そやな」

「僕らはここら辺で起きた事件とかを調べてみよう」

「おうっ!」

蔵書を調べるため、焔と杏は本棚から本を出しては読み、読んでは戻すを繰り返していた。

だが本は見た目以上に多く、そしてなかなかそれらしいものは見つからない。

分かったことといえばここは意外に古い町らしく、歴史も思いのほか深かったということ。

そのため昔のことといっても、その量が半端じゃないのだ。

本当にこんな中から手がかりなんて見つかるんだろうか?

そんなことさえ思えてきてしまう。

それでも根気良く本を読み続ける。

「………く、くくくっ………」

とその時、杏は何か声を聞いた気がした。

ここには自分達以外はいないはず、声の主はおのずと決まってくる。

(焔…やないな、目の前におるし。…ってぇことはっ………)

がタッ

「杏姉…?」

突然無言で動き出した杏に焔は疑問をぶつける。

だが杏は無言のまま、本棚の一つ向こうに歩いて行った。

「………」

「くぉらぁ〜!!!なぁにさぼってんのやっ〜!!!」

「うっわっ?!き、杏姉っ!!!」

杏の行った方から二人の騒ぎ声が聞こえてくる。

一体何をやらかしたんだか…。

気になって覗きに行くと、杏が狂の胸ぐらを掴んで怒り狂い、

響がそれをオロオロしながら止めようとしているところだった。

「ちょっ、杏姉っ、何やってんの?!」

「ぎゃっ〜、焔助けてくれっ〜!!!」

「止めんといてや焔ッ!!!くぉのクソガキもう我慢ならんっ!!!」

「どうしたっていうの?!」

「実はね、狂のやつが…」

「狂君が?」

「サボって新聞の4コマ漫画なんぞ読んどったんやっ!!!」

「…よ、4コマ漫画…?」

「ほら、新聞の横にあるだろ?あれをね…」

「だって同じ事の繰り返しで飽きたんだよぉ〜!」

「ほんなんウチらだって同じじゃっ、ボケェッ〜!!!」

「ぎゃあっ〜!!!」

ストレスが溜まっていたのもあるのか杏の怒りは相当な様で、手に負えないと思った二人は早々に戦線を離脱した。

まぁ狂の言う事も分からないでもないが、如何せん今はこれしか手が思いつかない。

やるしかないのだ。

杏と狂はまだ争っている。

というか、狂が一方的にやられている、と言ったほうが正しい。

「コラッー!!!」

その時だった。

不意に怒鳴られ後ろを振り返ると、そこには70歳位の老人が立っていた。

「ここを何処だと思っておるっ!!図書館じゃぞっ!!静かに本を読む所じゃっ!!!

 なのに喧嘩とは何事じゃっ!!!他の人の迷惑になるじゃろうがっ!!!」

はっと思い辺りを見回すと、運良く客は焔達だけであった。

杏達も突然の事に驚き喧嘩は止まったが、呆然としている。

暫く辺りを沈黙が支配した。

「あ、あの、すみませんでした!図書館なのに騒がしくしてしまって…」

一番最初に口を開いたのは響だった。

さすがに最年長者なだけあってしっかりとまずは謝罪をしている。

それに続くように、焔達も謝罪の言葉を述べた。

「す、すみませんっ、僕たちも止めなきゃいけなかったのにっ」

「ご、ごめんなさい…」

「すみませんでした、非常識なことやってもうて…」

それぞれの謝罪の一瞬後、それまで険しい顔をしていた老人は人好きのする笑顔で満足そうに笑った。

「うむ。しっかりと謝って反省すればそれで良い!元気があるのは良いことじゃが、時と場所を考えねばなっ」

「す、すみません…」

「ははっ、もう良いよ。ところで坊主達、見かけぬ顔じゃな」

「あっ、はい、僕たち東京から来たんです」

「俺達は京都からだけどな」

「ほぅ、随分とまた遠い所から来たんじゃな。何じゃ、観光か何かか?」

「ええ、そんなもんなんだったんですけど…」

「だった…?」

「あっ、観光ですっ、観光っ!!」

「ふ〜む…、まぁ良い。それにしても観光に来てなんでここで本を読んどるんじゃ?」

「えっ!そ、それは………」

ここで本当の事を言っても信じて貰えるわけでもなし、話がややこしくなるだけだ。

どうしようかと思っていると、その老人はまた優しく笑った。

「ふっ、まぁ、言いたくなければそれで良い。ゆっくりして行きなさい。

 なんせ久しぶりの客じゃからの」

「は、はいっ!ありがとうございますっ!!」

「なぁ、焔」

その時、杏が焔に小声で話しかけてきた。

「このじいさんにちょっと聞いてみぃひんか?何ぞ知っとるかも知れへん」

「そう、だね」

ここに住んでいた人なら、何かしら知っているかもしれない。

実を言えば、焔以外は皆もう本を探すのに嫌気が指しただけなのだが。

「あの、おじいさんちょっとお聞きしたいんですが…」

「ん、なんじゃ?」

「この辺で最近変わったことって起きてません?」

「変わったこと?…いや、聞いたことはないぞ」

「じゃあ、最近…じゃなくてもいいんですが、この辺で亡くなった人とかっていますか?」

「最近は聞かんのぉ。昔…といってもどの位昔なんじゃ?」

「えっ?!え〜っと…」

そう言われると解答に困ってしまう。

自分達だっていつの事か分かれば苦労はしない。

だからどの位と言われても答えることが出来ないのだ。

どうしようかと思って考え込んでいると、そこにこの場を打開する人物が現れた。

「あっ!焔兄〜っ!!ここにいたぜっ!!!」

それはまだ家で寝ているはずの陣だった。

「陣ッ!お前もう体は平気なのかっ?!」

「おうっ!もうピンピンしてるぜっ!」

昨日の今日で流石に今朝起きられなかったらしく、

焔達がペンションを出てきた時にはまだ寝ていたのだ。

だが、当の本人は思ったよりも元気そうで。

焔達は内心ほっとした。

「それにしてもなんでここが…?」

「母さん達に聞いたんだよ。起きた時母さん達しか居なかったからビビったぜっ〜」

「あぁ、起こすのもなんだと思ったからな」

「んで?ここで一体何してたんだ?」

「えっ?あぁ、昨日の事をちょっと調べようと思ってさ」

「昨日の事?」

「そっ、昨日お前が言ってたことが何かしら解決の手がかりになるんじゃないかと思って」

「………。焔兄………」

「何だ?」

「俺…、昨日なんて言ってた…?」

「はっ…?!お、お前覚えてないのかっ?!」

「いや、なんとな〜くは覚えてるんだけど…」

「昨日夢見たっていってたじゃんかっ」

「夢…夢……夢………。あっ〜!!!」

「思い出したか?」

「いや」

ズルッ

「お、お前なぁ〜…」

「だ、だってさぁ〜」

あまりにも思い出した感じで言う陣に思わずこけてしまった。

「ホントになんとな〜くは覚えてんだよ。変なでっかい家だった〜とか、殴られそうになったなぁ〜とか…」

「う〜ん」

昨日のことを覚えていないのは、果たして霊のせいか、陣が寝惚けていたせいか。

「何じゃ、何の話じゃ?」

「ぅっわっ?!」

「お、おじいさんっ…!」

「なんじゃいっ、人を化け物みたいに」

「ご、ごめんなさい…」

「だってよ〜、いきなり出て来んだもんよっ〜」

「陣っ!」

「まったく、いきなり来たと思ったら騒がしい坊主じゃのぉ」

「なっ?!俺は坊主じゃねぇっ!!」

「こ、こらっ、陣ッ!!す、すみません、おじいさん…」

「はっはっはっ!いいんじゃよっ、子供は元気が一番じゃっ!その子は君の弟かの?」

「あっ、はい、弟の…」

「等軍 陣だっ!」

「陣っ!それが挨拶する態度かっ!!」

「ってっ!」

焔は陣のあまりの態度に一発叩いた。

叩かれた方の陣はというと、納得出来ないのかどことなくふくれてしまった。

「はっはっはっ!仲が良いのぉ。そういえばまだ名前を聞いてなかったの。

 良かったら教えてくれんか?」

「あっ、僕は等軍 焔です」

「僕は鳥羽 響です」

「うちは鳥羽 杏です」

「俺は鳥羽 狂っ!」

「ふむふむ、焔君に陣君、それから響君に杏さんに狂君じゃな。

 ほぅ、兄弟で同じ名前とはおもしろいのぉ」

「あはは…」

「そういえば…、おじいさんのお名前は?」

「おぉっ、そうじゃったのっ。申し遅れた、わしの名は桜林 広太じゃ。よろしくの」

「よろしくお願いします」

「なぁ、じいさん」

「なんじゃ?」

「じいさんはここで何してんだ?」

「こらっ、陣ッ!目上の人には敬語を使えって何度言ったらわかるんだっ!!」

「ははっ、なぁに、構わんよ。わしはなぁ、ここで図書館を経営しとるんじゃ」

「こんな人の来ないようなとこで?」

「はっはっはっ!確かに人は来んのぉ。じゃがなぁ、…どうしても離れられなくての……」

その時微かに、しかし確かに老人の目に悲しみが過ぎった。

触れてはならないことだったのかと思い、思わず全員が口を閉ざした。

それに気付いたのかいないのか、老人は陣達に優しく笑いかけた。

「さてと、お前達腹は減ってないか?」

「えっ?」

「別にそんなには減って…」

ぐぅ〜

振り返るとそこにはやや照れくさそうに腹を押さえている陣がいた。

「そういや俺朝飯食ってねぇや…」

「ぎゃはっはっ!陣ダッセ…」

ぐぅ〜

「………」

もう一匹の虫が鳴いた。

「ぎゃはっはっ!狂だって人のこと言えねぇっ〜!!」

「う、うるせっ〜!!!」

「はっはっはっ!腹が減るのは元気な証拠じゃっ!」

「お前等なぁ…」

「みっともないで…」

「なっ、鳴っちまったもんはしょーがねぇだろっ!」

「気にする事はない。どうじゃ、一緒に昼ご飯でも食べんか?」

「えっ?!そ、そんな…、悪いですよ」

「なぁに、構わんよ。一人で食べるよりも大勢で食べた方が飯も旨いというものじゃよっ。

 坊主達が構わないならじゃが…。それとも…、迷惑かの…?」

「そっ、そんな迷惑だなんてっ!」

「じゃあ決まりじゃなっ!」

そう言うと広太は嬉しそうに笑った。

「なぁっ、じゃあ早く飯食おうぜっ!俺もう腹ペコだぜ…」

「陣ッ!」

「はっはっはっ!じゃあ早速準備するとするかのっ!」

「あっ、ウチも手伝いますっ!」

「あっ、僕もっ!おいっ、陣っ!お前も手伝えっ!」

「狂ッ!お前もやっ!!」

「えっ〜!!!」

「働かざる者食うべからずっ!!!」

「へぇ〜い…」

焔と杏の二人にこんなことを言われては逆らうとろくなことがない。

本当に昼ご飯抜きにさえなりかねないのだ。

いや、確実になる。

そう悟った陣と狂は不本意ながらも手伝うことを余儀なくされた。

「そうだ、陣」

「あんだよ」

「昨日のことで思い出すことがあったらすぐに俺に言えよ」

「えっ…?何で?」

「何かの手掛かりになるかも知れないだろ?」

「あ、あぁ…」

「ほら、行くぞっ」

「あっ、待てよっ!焔兄ッ!!」

「早くしないと置いてくぞっ!」

こうして6人は昼食に向かった。

ヒントはすぐそこにあるということを未だ誰も知らずに…。