本当に伝えたい事ほど上手く伝わらないんだ。


















ケンカのあとは…2






























あれから随分経った。辺りはもう日が沈みかけている。

でも、…まだ陣は帰って来ない。

焔は途方に暮れていた。

自分はきっと陣を傷つけた…。

言ってはならないことを言ってしまった…。

でも…、




































自分は間違ったことは言ってはいないとも思った。

いつも無茶ばかりする弟、いつもいつもどれだけ俺が心配してるのか

本当にあいつは分かっているのだろうか?

本当に…











































自分は一体どうするべきなのだろう…。

陣に謝った方がいいのだろうか?

このままあいつが反省するのを待っていた方がいいのだろうか?

それとも…





































「…っ君、焔君!」

「えっ、あ、綾っ?!い、いつからそこに!」

「ついさっきだよ。どうしたの焔君、ぼぅっとしちゃって」

「えっ、あ…いや…、別に………」

「ふぅん、そういえば、陣君は?」

「えっ?!………」

焔は今一番聞かれたくないことを聞かれ、黙り込んでしまった。

「…もしかして、陣君とケンカでもした?」

「………!!!」

















鋭い、どうして簡単にわかってしまったのだろう…。

自分はそんなに分かりいやすい顔をしていたのだろうか?

俯いて黙りこくってしまった焔を、質問の肯定ととったのだろう。

綾は、静かに問いかけた。

「ねぇ、焔君、何があったの?」

「………」

焔は答えようとしない。

綾は仕方なくその場に座って話してくれるのを待つことにした。









































しばらくして、焔は急に話し出した。











































「今日…さ、陣とケンカしたんだ…」

「うん」

「それで、陣の奴がまたわがまま言い出して…」

「うん」

「それで、陣が俺は悪くないって言ってさ…」

「うん」

「それで俺、その言葉聞いた瞬間に…その、キレちゃって…」

「どうしたの?」

「陣がやってたゲームのコンセントを、引っこ抜いたんだ…」

「………」

「それで、その後怒り出して突っ掛かってきた陣を殴ったんだ」

「それで?」

「それで、…その…、そのまま怒りが収まらなくて…」

「何かしたの?」

焔は否定しているのか、曖昧な感じで首を横に振った。

「…したって言うか………、言ったって方が正しいかも、なんだけど…」

「うん」

「今までの溜まってたものが、その、…一気に爆発したって言うか…」

「何て言ったの?」

「無計画で無鉄砲だ…とか、無茶ばかりするな…とか、あと………」

「あと?」

焔は一瞬言うのを躊躇った。でも、言わなければ先へは進めない。

そんな気がして意を決して言った。
























「あと、………足手まといになるな………って………」

「そう、言ったの?」

返事の代わりに、焔はコクリと頷いた。

「………俺、きっとあいつを傷つけた………」

「じゃあ、謝るの?」

「でもっ!!…俺は、………きっと間違ったことは…言ってない………」

「じゃあ、謝らない?」

「…っ、わからないんだ…!自分が………どうしたらいいのか………」

「………聞いていい?」

「えっ………?」

「焔君はさ、自分が言ったことで何が間違ってないと思うの?」

「えっ………、えっと………無計画で無鉄砲だ…とか、無茶ばかりするな…とか…」

「じゃあ、何が間違ってると思ったの?」

「………足手まといになるな………って………」

「それは、焔君が本気で思ったこと?」

焔は今度ははっきりと否定のために、首を横に振った。

















「違う…!違うんだ…!!………ただ、勢いで…って言うか………」

「じゃあ、どうするの?」

「………わからない………。一体、どうしたらいいのか………」

「ねぇ、焔君、どうしたらいいのかじゃないよ。」

「………?」




































「焔君自身が、どうしたいのか、だよ?」

「………っ!」







































「どうしたらいいのか、なんて後で考えればいいんだよ。
 まずは、焔君がどうしたいのか、それが一番大事なことじゃないかな?」

「…俺は、………、………っ綾!ごめん、ありがと!!俺、行ってくるっ!!!」

「たぶん、立浪川にいるよっ!」

「わかったっ!」

焔はそのまま部屋を勢いよく飛び出していった。

















一人取り残された綾は、どこか微笑ましそうにしていた。

























「まったく、似たもの同士だね」




































綾の言葉は誰に聞かれることもなく、部屋の中にとけていった。



















































ねぇ、伝えたいことは言葉にしなきゃ、伝わらないよ?






『ケンカのあとは…』2です! 今回は、焔サイドです。そして、綾初登場! にしても、綾、なんか大人ですねぇ。 何となく綾って、陣はもちろん、焔よりも大人なところがあると思う。 うぅ〜む………。 さぁ、次は陣サイドだっ!!!