人の言葉がこんなに痛いだなんて 思ってもみなかった。 ケンカのあとは…3 家を飛び出した陣は、行く場所なんて考えていなかった。 ただ……… あの場所にいたくなかった。 きっと焔は、自分のことが嫌いになったんだ……… もう、自分のことはいらなくなったんだ……… そう思った……… 気がつくと陣は龍浪川まで来ていた。 どうすることも出来ず、ただその場に座り込んでいた。 その時だった。 「おぉー、お主陣ではないか!何じゃ、遊びにきたのか?」 「えっ………」 振り返るとそこには、元美津濃の守神で とある事情により今は龍浪川にいる魚水だった。 「どうした、冴えない顔をしおって」 「うっち………」 「ん?そういえば………」 魚水はキョロキョロと辺りを見回した。 「お主、今日は一緒ではないのだな」 「………何が………?」 「焔のことじゃ。」 「っ………!!!」 「それに、凶達も連れていないようじゃが………、どうしたのじゃ?」 陣は焔のことは今一番聞かれたくなかった。 だから、思わず眼を反らしてしまった。 「何じゃ、ケンカでもしたのか?」 「………!!!」 「………図星のようじゃの」 何も言えなかった………。 思い出すだけで、苦しくなった………。 止まりかけていた涙がまた、溢れてきた。 「な、何じゃ、どうしたのじゃ?」 急に泣き出した陣に、魚水は訳が分からずにただ驚いた。 理由を聞こうとしても、陣は泣いて首を横に振るだけであった。 まるで、話すことを拒むかのように………。 しばらくして、魚水は陣の隣に腰掛けた。 陣は相変わらず何も言わない。 その沈黙を先に破ったのは魚水の方だった。 「のぅ、陣。何があったのか、話してくれぬか?」 陣は何も言わず、ただただ首を振るばかりであった。 すると魚水は、急に懐かしむように話し出した。 「のぅ、覚えておるか?主と初めて遇うた日のことを……… 主達は確か凶を探しにやって来たのじゃったな」 「………」 「我は最初主等を惑わした。だが、主はそれを気にもとめず 逆に我のことを友だと言うたな? こと神になってからそんなことを言ったのは、主が初めてじゃった」 「………?」 陣は、魚水が何を言いたいのか全く分からなかった。 それでも、魚水は構わず続けた。 「それを聞いた時、我は…言葉では言い表せない位………嬉しかったのじゃ。 そして主は約束通り我を救うてくれたな。 我のことを、友として………」 「………」 「だからのう、陣…我は…… 主の力になりたいのじゃ。 あの時主が救うてくれたように…」 「主の…陣の、友として………」 「っ………!!!」 ………友、として………? 俺のことを………? この言葉に陣は何も言えなかった。 涙にはいつしか、嬉しさも混じっていた…。 「なぁ、魚水、どうしよう…!俺、きっと焔兄に嫌われたっ…!」 「どういうことじゃ?」 「俺のこと…きっと、い、いらなくなっ…た…!!」 「…陣、落ち着いて初めから話してみい。」 陣はさっきあったことを魚水に話し出した。 「さっき俺が家でゲームしてたんだ…。 そしたら母さんに呼ばれて…でも俺行かなかったんだ…」 「なぜじゃ?」 「………ゲームしてたかったから………」 「ふむ、それで?」 「そしたら焔兄と口喧嘩になって… いきなり焔兄がコンセント抜いたんだ…」 「ふむ」 「…俺ムカついて…それで焔兄に文句言おうとして… そしたら急に焔兄が殴ったんだ… それで………」 「どうしたのじゃ?」 「………焔兄がいきなり怒り出して……… 俺のこと…無計画とか……無鉄砲とか……… ………あ、足で、まといだっ………とか」 言うなりまた陣は泣き出してしまった。 「そう、言うたのか?」 陣は返事の代わりに頷いた。 「ふぅむ。それで陣はどうしたのじゃ?」 「………っが、楽師っ…やめっ…るっ…てっ…い、っ言ったっ………」 「………それは………本気で言うたのか?」 「…っわ、わかんっ…ねぇっ…」 「焔に言われたことに腹が立ったからか?」 「…それもっ…あるっ…けどっ…」 「それだけではないのか?」 「…っなんかっ…悲しくてっ…苦しかったっ…んだっ…」 「そうか………」 しばらく沈黙が続いた。 まだ涙は止まらない。 止めようとしても、あの言葉が頭から離れない……… やっぱり焔兄は俺のこと、嫌いになったんだ……… そう思わずにはいられないから……… 「のぅ陣、一つ聞いても良いか?」 「………?」 「お主、何を言われた時に悲しいと思ったのじゃ?」 「………あ、足でまといにっ…なるなっ…て言われた時………」 「何故じゃ?」 「………俺のこと、………いらないって………言われたみたいだったから………」 「では、主はそれが焔の本心からの言葉だと、そう思うのか?」 「………わ、わかんない………」 「主のことが憎くて言うたと、そう思うか?」 「………」 陣は何も言わない、…いや、言えない………。 もう何を考えればいいのかさえも分からない………。 それだけ気持ちと考えが交錯していた。 「………のぅ陣、我が思うたことを言うても良いか?」 「………」 「…我はな、…焔は決してお主のことが嫌いになったわけではないと思うぞ?」 「えっ…?!」 「それよりも主のことが好きだからこその言葉ではないのか?」 「………ど、どういうことだ………?」 「よう考えてみい。焔は主に無計画やら無鉄砲やら言うたのであろう? それは間違いではなかろう、違うか?」 「………」 「主は言われてそのことに気がついた。 逆に言われねば気がつきもしなかったであろう?」 「………」 「…焔は…主のことをよく見ておるようじゃの。 そうでなければ、言えん言葉じゃ。 …陣、主は嫌いな相手のことなぞよく見たりするか?」 「………しない、…たぶん………」 「じゃろう? 焔はな、きっと…陣、主のことが心配だからこそ言うたのじゃ。 大切な、たった一人の弟だからこそ…。 まぁ、足手まといは言い過ぎかもしれんがな」 「………大切………?」 「そうじゃ!陣は、焔のことは嫌いか?」 陣は思い切り首を横に振った。 「では、どう思う?」 「………たぶん………大切………なんだと思う…」 「そうであろう?兄弟とはそんなものじゃ。 時にはケンカもするし、相手が嫌な時もある。 だが、互いに大切だと思っているからこそ、また仲良うなれるのじゃ。」 「仲良く………?」 「うむ!」 それきり陣は黙ってしまった。 まるで自分で自分の整理をつけているようだ。 だが、先程のものとは違う、嫌な沈黙ではない。 「あれっ、陣君?」 ふと声がした。 振り返ると、そこには見知った人物がいた。 「あ、綾?」 「どうしたの、こんなとこで?」 「あ、綾こそどうして…?」 「僕?僕は家に帰る途中なんだけど…、あれ、焔君は一緒じゃないの?」 「えっ…あ…、その………」 「此奴はの、焔とケンカしたんじゃ」 「なっ…う、うっち!!!」 「ケンカ、したの?」 「うっ…、うん………」 何となく陣はばつが悪くなって、綾から眼をそらした。 「それでここまで?」 「う、うん…」 「ふぅん、なんか羨ましいなぁ」 「えっ…?」 「何じゃ、ケンカが羨ましいとは奇妙な奴じゃの」 「あっ、いえそうではなくて、何て言うか… ケンカできる兄弟がいることが…羨ましいなぁって」 「そうか…?」 「そうだよ。だってケンカするってことは それだけ相手のことをよく見てるってことでしょう? すごく素敵なことだと思うけど。 それによく言うじゃない?」 『ケンカする程仲が良い』 「ぷっ、あははっ!!!」 「ふっ、二人してハモることないだろっ!」 陣が怒り出したのに対し、魚水と綾は一緒になって笑い出してしまった。 さっきまでとは違って、和やかな雰囲気である。 ひとしきり笑い終えて、急に綾が言い出した。 「ねぇ陣君、これからどうするの?」 「えっ…、どうするって…」 「焔に謝るのか?」 「………わからない………」 「………僕はさ、詳しいこと知らないから何とも言えないけど ………もし、陣君が自分にも悪いところがあったと思うなら まずはそれを考えてみて? それでそれをどうしたいのか、どうしたらいいのか、考えてみて? それで、やっぱり自分が悪かったと思うなら………」 「謝ることじゃ」 「謝る?」 「まぁ、悪かったと思うなら謝るのが礼儀というもんじゃろうな」 「………」 「よしっ、じゃあ僕は帰るけど…、陣君はどうする?」 「う、…うーん、俺はもうちょっとここにいる」 「そう。じゃあ、先に帰ってるね?」 「うん…」 陣はまだ整理がついていないのだろう、家に帰ろうとはしなかった。 今はまだ………帰れない……… でも もう少ししたらきっと…帰るから… 人の言葉が痛いんじゃない……… きっと、大好きで大切な人の言葉だから痛いんだ………
いえーい! 今回は陣サイドでーすv 特別出演はうっちデース♪ 結構好きです、この人(神?) さぁ、次で最後ですv 頑張っていってみよー!!!