仲がいいほど勇気がいるんだ

























ケンカするほど…4

















焔は走っていた。

周りになどは目もくれず、ただひたすら走っていた。

龍浪川へ………






























焔が着いた時、辺りはもう日が完全におちていた。

でも、…陣はいた。

まだそこにじっと座っていた。















帰って…なかったんだ………

見つかって良かったような、会いたくなかったような

そんな奇妙な気持ちが渦巻いた状態………













ジャリッ

音に気付いて振り向けばそこには焔がいた。

「あっ………」

陣は何も言うことが出来ない。

焔も何も言ってこない。











嫌われていないと周りがどんなに言っても

それでも不安はぬぐえなくて………

もしかしたら、そればかりが頭から離れてくれない…

















しばらく沈黙が続いた。

それが続けば続くほど言い出すタイミングを逃してしまう。

最初に沈黙を破ったのはどちらだったか

「陣!」「焔兄!」

「あっ、な、なんだよ」

「焔兄こそ」

「………」

二人いっぺんに言い出したので、逆に言えなくなってしまった。

また沈黙が二人に重くのしかかる。



























「はぁー、………陣、話がある」

切り出したのは焔だった。

陣は返事こそしないが聞く気はあるようだ。

なんとなくほっとしながら本題に入る。

「………昼間…さ、ケンカしただろ…

 俺は、…お前に言ったこと間違ってたとは思ってない」

陣は逃げ出したくなった。









このままでは一番聞きたくない言葉を聞かなきゃならなくなるから………









「お前に無鉄砲や無計画だって言ったのは、もう少し考えて欲しいからなんだ。

 俺と一緒に凶を退治してるんだってことを…

 お前が凶に突っ込んでいった時、…すごく心配したんだ…

 俺達の仕事は命が危険な時だってある、…お前だって分かってるだろ」

陣は俯いて何も言わない。

それどころではないのだ。

いつ焔にあの言葉を言われるのかと思うと胸が苦しくなってくる。

息が出来ない位、何かに締め付けられてるようだ。

「この先、どんな凶に遇うか分からない…

 いつ、どんなとこで危険なめに遇うかなんて予想することは出来ない

 無茶をすればそれこそ命だって………

 だからこそ気をつけて欲しいんだ。

 俺はお前のことが心配なんだよ、陣…。

 ただ、その………足手まといって言ったこと………」

ビクッ

陣は耳を塞ぎたくなった。

だって焔の口から出るのは、考えたくなかった、もしかしたら…、の続きかもしれないのに………











聞きたくない 聞きたくない 聞きたくない!















「あれは、…その………言い過ぎた。

 勢いに任せてっていうかなんていうか………

 とにかく、………ごめん………」











今、…なんて…?

ごめんって言ったの?

俺のこと、心配だから言ったの?

俺のこと、足手まといじゃないの?

俺のこと、………嫌いになったわけじゃないの………?





































「だからな、陣…その、って陣?」

陣は泣いていた。

だけど、…悲しい訳じゃない。

どちらかといえば、…嬉し涙…。

「っ…ご、ごめんなさい。ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」

陣は焔に抱きついて泣きながら、謝りだした。

焔は最初驚いたが、気がつくと陣の頭を撫でていた。

もう何に対して謝っているのか、陣自身分からなくなっていた。

だから…







































いろんなことにごめんなさい






































しばらくして、陣がひとしきり泣き、謝っていた声が止んだ。

どうしたのかと思い顔を覗くと、陣は泣き疲れて眠っていた。

「………ったく、泣き疲れて寝てるなんて、ガキみてぇ」

そう言いながらも、焔の顔はどことなく嬉しそうだった。






































「よいしょっ、と」

焔は陣をおんぶしていくことにした。

いつもならたたき起こすところだけど

ちょっとの罪悪感と素直に謝ったことへのご褒美で

今日は特別に許してやるよ

陣を背負って帰ろうとした時、後ろから呼ばれた。

「おぉ、焔ではないか。主等ケンカはどうした。仲直りしたのか?」

「うっち…、何で俺等がケンカしたってことを…」

「なんで知っておるのか、と言いたいのじゃろう?」

「…はい」

「陣の奴がの、ここに来て泣いておったのじゃ。

 ケンカしてお主に嫌われたと言うてな。」

「えっ…」

「お主に言われたことが相当堪えたのであろう。

 どんなことを言うても沈んでおったぞ。」

「………そう、ですか………」

「まぁ、でも此奴の顔を見ると、どうやら仲直りしたようじゃの。

 見てみぃ、この安心しきった顔!

 まったく、単純な奴よのぉ。

 こら!お主まで沈んでどうする!

 ほれ焔、見てみぃ、陣のこの顔を!」

「………」

背中にいる陣の顔はすごく安心していて、

こっちまでその雰囲気が伝わってきた。

こんなに安心しきっているのを見ると、なんだかおかしくなってきた。

「こんなに安心しきって眠れるとは、お主信頼されておるのぉ」

「信頼………?」

「そうじゃ!信頼しておらなんだら、こんなに安心はできんじゃろう?」

そう言われると、なんだか嬉しくなった。

一応…信頼はされてんのかな…

「そう、ですね」

「そうじゃ、そうじゃ」

結局最後はおかしくなって、二人して笑いだしてしまった。

温かな空気がとても居心地が良い。














































周りはもう真っ暗だった。

いい加減帰らないと心配されるので別れを告げて帰ることにする。

「じゃあ、今日はこれで。陣のこと、ありがとうございました」

「なに、気にするな、友として当然じゃろ?」

「はは、それじゃあ」

帰ろうとした時、何かを思い出したのか魚水が呼び止める。

「おぉ、そうだ焔!」

「何ですか?」

「一つ聞いても良いかの?」

「はい…?」

少し間をおいて聞く魚水の顔は急に真剣なものになって

「………お主、陣のこと、嫌いか?」

そんなことを聞かれた。

「なぜ、そのようなことを聞かれるのですか?」

「少し気になっただけじゃ」

唐突な質問だったが、たぶん原因は昼間のケンカだろう。

魚水なりに気にかけてくれているのだ、きっと。

でも、これだけは自信をもって言える。

「………嫌いなわけありませんよ。たった一人の弟なんだから」

自信を持って言った焔に魚水は満足そうに笑った。

「そうか!」

「はい!」

「引き留めて悪かったの。

 もう遅い、気をつけて帰れよ」

「はい、それじゃあ」

































魚水と別れて、焔は家への道を歩いていった。

背中に背負った陣を、重いとは思ったが、

不思議と嫌だとは思わなかった。














































ねぇ、仲が良いほど謝るのって難しいし、勇気がいるんだ

でもね、





















































仲直りした時の嬉しさが、その分ずっとずっと大きいんだ
































やったーーーーー!!! 遂に完結しましたよ奥さん!←? なんか1・2・3と一日ごとにupしてた割に、いやに4だけ遅かったような………